園児が“自分で”決める主義「まちの保育園」の特色とは?
公開日:2017/4/25
「まちが、保育園になる」「保育園が、まちの頼れる存在になる」両方の視点を持って、実際に運営をしている保育園が“まちの保育園”だ。
『まちの保育園を知っていますか』(小学館)の著者である松本理寿輝氏は、「子供たちの持つ力の素晴らしさを、1人でも多くの方に届けたい、そして、地域に様々な年齢の“友達”がいる楽しさをお伝えしたい」と言っている。
今年の2月に、兵庫県姫路市の私立認定こども園「わんずまざー保育園」が、定員を大幅に超える園児を受け入れて運営し、園児40人分の給食を、約70人の園児たちでわけていたため、中にはスプーン1杯の給食しか与えられていなかった園児もいたという衝撃のニュースが報道された。
この事実だけをピックアップすれば、「なんてひどい」と大半の方が思うだろう。しかし、更に衝撃だったのは、「わんずまざー保育園」に子供を通わせていた保護者の方の中には「どこにも子どもを預けられるところがなくて、でも働きに行かなくてはいけないし、助かっていたんです」という声もあがっていたことだ。
スプーン1杯の給食しか与えられない保育園でも、「助かっていた」とは。それだけ追い詰められて毎日必死に育児・家事・仕事をこなしている親たちがいるという事実。大切な子どもを育てるために働いているけど、大好きな子ども危険な目に遭わせたくないから誰も信用できない。そんな閉鎖的な世界を作りこんでしまっている親たちも大勢いる。
それでも、幼いときに育つ環境がもたらす影響は大きいから、心の種にできるだけたくさんの栄養を与えたい。たくさんの奇跡の連続で、今目の前にいる子にできるだけたくさんのキラキラ輝く瞬間を見せてあげたい。そう願わない親がいるだろうか。
「まちの保育園」は、2011年4月1日に東京都認証保育所「まちの保育園 小竹向原」(東京都練馬区)を開園し、4年後には認可保育所となった。現在は、全部で4つの認可保育所と1つの認定こども園を運営している。また、今年の10月には、認定こども園「まちのこども園 代々木公園」(東京都渋谷区)が開園予定だ。
「まちの保育園」では、園児が“自分で”決めるということを大切にしている。その中の1つの試みに「プロセス主義」がある。「プロセス主義」とは、「結果主義」が「できるようになったこと」を見ていくのに対し、「今、子どもが何に夢中になっているか」「何に気付き、どのような気持ちでそれを探求しているのか」の学びのプロセスを捉えていくこと。「今まさに夢中になっていること」は1人1人違う。今日は何をしたいか、朝の会で話し合い、やりたいことごとに子供たちがグループを決めて、午前の時間を過ごす。
ある男の子は「色」に夢中になっていて、三原色でいろんな色を作ることができる「日本の伝統色」の色見本帳を見て「全ての見本帳の色を再現したい!」と、絵の具と水を調合して見事に全ての色を再現してみせたという。
そういう時にカラーコーディネーターの資格を持っている人や、水彩画や油絵など絵を学んでいる人が近くにいたら、もっと良い学びの場が持てるだろう。「大人がまずは自己充実していること」も大事だと松本氏。毎日の充実が余裕につながり、接する子どもにダイレクトに影響する。「まちの保育園」では、「子どもも主人公だけど、先生たちも主人公」と話しているという。いろいろな価値観、考え方の人がいるんだよと言葉で伝えるよりきちんと、子どもたちには伝わりそうだ。
松本氏が伝え続ける強い思いに、共感する人々の輪が広がっていき、まち全体で子どもたちの成長を見守る。そういう環境で育った子どもたちが将来、同じ思いを共有していく。そんな世の中も遠くない。今、そんなことを思う余裕はなくてもこの本と共に目の前のお子さんに「今何に夢中になってる?」と聞いてみてほしい。そうしたら、どんな答えが返ってくるだろうか。
文=大石百合奈