「朝型」VS「夜型」 デキる人は夜飛躍する!?
公開日:2017/4/24
「朝活」という言葉を耳にするようになって久しい。人よりちょっと早く起きて、運動をしたり勉強をしたり仕事をしたり。朝の時間を有効に使うことで人生を豊かに、余裕ある日々を。その理屈はよくわかる。
というよりも、「早起きは三文の得」なんてことわざがあるくらいだから、この考えは特別目新しいわけでもない、人生の真理のひとつなのだとは思う(大げさ)。
しかし、世の中にはどうしても朝が苦手、という人だっている。そんな人々は時間を有効に使うことはできないのか? 朝活で人生を豊なものにすることはできないのか? そんなことはない。どんな人でも1日が24時間なのは同じ。朝がダメなら夜を有効に使えばいいのだ。
というわけで『夜型人間のための知的生産術』(ポプラ社)である。著者は『身体感覚を取り戻す』『声に出して読みたい日本語』などのヒットで知られ、テレビなどでも活躍する明治大学文学部教授の齋藤孝氏。
朝の情報番組のMCを務めていたこともある齋藤氏だが、意外にも朝が弱く「夜型人間」なのだという。MCは周囲の協力もあってやりきったそうだが、本来、寝るのはだいたい深夜3時で、起床は午前9時頃。執筆作業や読書、思索といった「知」の時間はほぼ夜、深夜だという。
ゆえに朝型人間ばかりが賞賛される世情に疑問を感じ、“夜だからこその知的生産”にスポットをあてて紹介することを思いついたという。
その細かな「知的生産術」は本書を読んでほしいが、印象的だったのは、「夜」と「朝」の知的生産の違い、特性である。もっとも大きな違いはリミットの有無。朝はいかに早起きしても3、4時間後には通勤通学始業の時間という、リミットが迫っている。夜も就寝時間というリミットはあるのだが、朝に比べればその締めつけは緩い。
だから、あせらず大長編の読書にじっくり取り組めたり、ときに脱線もしながら企画やアイデアの考案に思いをはせたり、あるいは電話やメール、メッセージアプリに気をとられることなく、1人で集中して何かに取り組むといった作業に向いている。夜には夜のメリットがあるのだ。
それに比べると、朝は時間的リミットがより迫ってくるということもあり、「タスク処理」的な作業になりがちである。ただ、タスク処理が悪いわけではない。「毎日5分だけする勉強」や「やればすぐ終わる」という作業は、ヘタに時間的余裕のある夜にやると、ダラけてしまうこともあるだろう。むしろそれは時間に追われる朝(あるいは昼)の方が向いている作業といえるかもしれない。
と考えると、朝か夜か、という二者択一ではなく、自分のやるべきこと、やりたいことの特性に合わせて朝と夜の時間の使い方を柔軟にしてみては、というのが、この本が教えてくれることかもしれない。
実際、本書でも時間制限を設ける「追い込み型」の発想術は昼向き、という一節がある。著者も夜がすべてと主張しているわけではないのだ。
本書の中には、次のような一節がある。
では知性とは何でしょうか?
それは、決めつけや思い込みに縛られず、視点を自由に移動することができることです。
この言葉を借りれば、本書は、まさに朝型ばかりが賞賛される最近の傾向に、著者が「視点を変えれば夜もいいところがあるよ」と知性的に説いた一冊。夜型の人はもちろん、苦しさや辛さを感じつつも、世の流れに合わせて無理矢理、朝型に取り組んでいるような人も、一度、読んでみてはいかがだろう。
文=長谷川一秀