電通「Yes」博報堂「できない」「顧客第一主義」広告業界のリアルな実態とは?
公開日:2017/4/28
昨年から今年にかけ、社会問題として大きく取り上げられた電通新入社員の痛ましい過労自殺。月100時間を超えていた残業時間、極限状態に追い打ちをかけるような上司からのパワハラ発言に関する報道を見て、業界トップの電通は過酷な状況下で社員を働かせる「ブラック企業」というイメージを持った人も多かったのではないだろうか。
しかし依然、就職先としての人気は高い。来年卒業予定の学生を対象とした「楽天 みんなの就職活動日記」の人気企業ランキングによると、前年より順位を大きく落としたとはいえ、10位に博報堂、電通は23位と、2大広告代理店が上位に名を連ねている。華やかなイメージがある業界だが、どんな仕事をし、どんな世界なのか、意外と知らない人も多いのではないだろうか。そのリアルな実態を教えてくれるのが、『電通と博報堂は何をしているのか(星海社新書)』(中川淳一郎/講談社)である。
著者自身が元博報堂社員。退職後も業界との付き合いが深く、本書の執筆にあたっては複数の電通・博報堂の現役社員や取引先などへの取材を行っている。
そもそも、広告代理店とは広告に関する業務を総合的に行う「サービス業」。客からの要求には何があろうと応えなければならない。メーカーなどと違って明確な解答がなく、「考え抜くことが仕事」ゆえに、クライアント側の事情に合わせて対応することで過重労働になるという。
また、デジタルが発展し、変更が容易になった近年では、さらに作業は増加。自殺した女子社員はそのデジタル部門に属していたが、著者や現役の電通社員から見ると、残業が100時間を超えることは「普通」で、彼女の残業時間は他の人と比べると「短かったと思う」とコメントしている。在籍する部署や担当先によっては、300時間の残業になることも珍しくなかったというが、現在、電通では夜10時消灯といった改善策が取られている。
また、本書では、電通と博報堂の違いについてもさまざまな視点で書かれている。電通は、客に対する答えは「Yes」しかなく、忠義を徹底的に尽くす軍隊のような体質であるのに対し、博報堂は客に「できない」を言い、時に冷たいビジネスをするのだそう。また、電通では仕事を取ってくる営業がえらいとされ、博報堂では、クリエーターやプランナーといったスタッフの権限が強いという違いがある。
著者が「業界案内」「会社案内」とする本書には、現役社員の生の声を始め、東京五輪エンブレム騒動や、電通が持つとされるテレビ局やスポーツ業界への利権に関する話、大事なクライアントのために行った珍サービスのエピソード、都市伝説の真偽など、この業界、トップ2社ならではの話が綴られ、これから広告業界を目指す学生にはもちろんのこと、違う業界で働く人にとってもどこかに共通性を感じられる内容となっている。
取材した人たちからは会社や業界の悪口が語られることはなかったといい、著者自身からもこの業界や古巣への愛が感じられた。「社畜性」「滅私奉公性」があるというが、仕事にやりがいを感じ、純粋に会社と仕事が好きな人たちが多いように思えた。働き方の価値観は人それぞれなのだろう。
文=三井結木