ゲームが発売中止になるのは、一体誰の責任なのか?「お蔵入り」となったゲームから、その真実に迫る
公開日:2017/5/5
もう随分と昔になるが、私にはゲーム関連の書籍を多く手がけていた時代がある。その頃は日々、メーカーからのリリース資料や雑誌の発売カレンダーに目を通して新作チェックを行なっていた。そして発売が近くなってきたゲームを紹介するのだが、その時に一番困るのが「発売延期」の対応だ。特にメーカーから「紹介を取りやめてください」という要請が来た場合、急遽その記事を別のものに差し替えることになる。そしてこれが、結構な頻度で発生するのだ。それでも発売延期となったタイトルが後日、無事に発売されるならまだよい。場合によってはそのまま「発売中止」となってしまうケースだって少なくないのだから。『幻の未発売ゲームを追え! ~今明かされる発売中止の謎~』(天野譲二:著、GAMEgene編集部:編集/徳間書店)に収められているのは、そんな悲しい「お蔵入り」となった作品ばかりだ。
ひとくちに「発売中止」といっても、その理由はさまざまにある。その中でも一番分かりやすいのは、やはり「メーカーの倒産」ではなかろうか。もちろんそこに至るまでには多くの迷走があるのだが、直接的な原因としては理解しやすいはず。本書に登場する『メタルマックス3』(プレイステーション版、以下PS版)も、その辺りのゴタゴタに巻き込まれた作品だ。
『メタルマックス』はデータイーストというメーカーからファミリーコンピュータ(以下FC)のタイトルとして1991年に発売された。ゲーム好きには割と知られた作品で、戦車をカスタマイズして賞金首などの敵を倒していくのだ。開発には『週刊少年ジャンプ』の「ファミコン神拳」で「ミヤ王」として参加していた宮岡寛氏が携わった。
本書のインタビューでは発売中止に至るさまざまな事情が語られるが、やはり一番大きかったのは「資金難」だったようだ。そしてデータイーストが1999年に和議申請して事実上倒産すると、宮岡氏らスタッフはアスキーで『メタルマックス ワイルドアイズ』という作品を手がけるも、アスキーが経営難による再編問題に直面して、結局それもお蔵入りに。世知辛い話ではあるが、発売元の事情には逆らえないのである。ちなみに2010年に発売された『メタルマックス3』(ニンテンドーDS版)は、PS版とはまったくの別物ということだ。
また別のケースとしては、プロジェクトの中心人物による決断が挙げられる。NECインターチャネル株式会社(現:株式会社インターチャネル)に多部田俊雄氏というプロデューサーがいた。『センチメンタルグラフティ』などのヒット作を世に送り出した人物だが、一方で発売延期や中止となったタイトルが多いことでも知られている。本書で取り上げている『モンスターメーカー 神々の箱舟』『モンスターメーカー ホーリーダガー』もそれに該当し、著者は多部田氏が「CGや音声、スクリプトなども全部できています。もちろんストーリーも」と発言していることなどから、完成・発売寸前だったと考えているようだ。実際、多部田氏は完成度の問題で発売を中止することもあったらしく、事実はともかく、こういう展開も現実に起こりうるのである。
しかし発売中止の中で最もやりきれない事情──それは「クリエイターの他界」であろう。もちろんゲームは多人数で作るため、スタッフのひとりが亡くなっても発売されることは多い。だがそれが「余人をもって代えがたい人物」であれば話は別。PS2で発売が予定されていた『斑霧(むらぎり)』というタイトルは、堀部秀郎という人が原画を担当する予定だった。しかし2006年に氏が急逝し、本作が発売されることはなかったのである。堀部氏のイラストは美しく、芸術的だった。実は私が某美少女ゲーム雑誌の編集協力をしていたとき、その表紙を担当していたのが堀部氏だ。氏の急逝後、誰を後任に立てるか議論があったが結論を得ず、以降はその月に特集した作品のキャラクターを表紙にする形式に変更。それほど他に代えがたい存在感があったのである。
本書にもあるが、ゲーム制作に際しては「秘密保持契約(NDA)」を締結することも多く、裏事情のほとんどが表に出ることはない。それでも発売を心待ちにしていたであろう人々に向け、一部でもその事情が明かされたことは意義があろう。願わくはあくまでも「ユーザー」のため、発売延期や中止の類は避けてほしいものである。
文=木谷誠