「やる気になった“元ヤン” 北千住」【連載】第6話「住みたい街」の正体をあばく! 『首都圏「街」格差』
公開日:2017/5/1
毎年注目される、不動産情報サイトや雑誌の特集で発表される「住みたい街ランキング」。そこに登場する「街」は本当に住み良いところなのか? 人気はずっと続くのか? これからランクアップする「穴場」はどこか? そんな「住みたい街」の正体をあばく文庫本『首都圏「街」格差』が好評発売中! いま首都圏で話題となっている様々な「街」をテーマ別に選定し、現地での観測調査と統計資料を使いながら実態をあぶり出していきます。
治安の回復で人気も急上昇
かつての北千住は、印象が悪かった。「ヤンキーと暴走族だらけ」で“治安の悪い足立区”の代表的な繁華街。ひと昔前までは、風俗街のイメージもあった街。
しかし、これはいったいどうしたことか? 不動産・住宅情報サイト「SUUMO」の「穴場だと思う街ランキング」(2016年)で2位の赤羽にダブルスコアの大差をつけて不動の1位になっている。街のイメージは大きく変貌していた……。
改札口を出ると、従来の北千住への偏見が払拭される。昔からあった東武伊勢崎線や営団地下鉄にくわえて、平成17年(2005)にはつくばエクスプレスも接続するようになった一大ターミナル。
駅のすぐ右手には平成20年(2008)に開設された東京電気大学・北千住キャンパス。真新しい校舎群が連なり、学生数は1万人を超えるという。昼間の通りを歩く人も、20代の学生風が大半。明るく前向きな若者たちが集う学生街。そんな眺めだ。
にぎわう表通りのすぐ裏手は、昔のままに古い木造家屋が密集する住宅街。無計画に入り組んだ路地は袋小路も多く、道幅は軽乗用車でも通行不可能なほどに狭い。車が入って来られない路地では、猫が堂々と道の真ん中で昼寝する。道端に椅子を出して日向ぼっこする老人の姿も目立つ。弛緩した空気は平和そのものだ。
路地裏ではまた、他の街よりもかなり高い頻度で自転車に乗った警官と出会う。気合いを入れてパトロールしているようだ。駅前には「おかげさまでまた減りました 刑法犯認知数6,000件台」と書かれた横断幕が張られている。ピーク時には足立区内で16,000件台の刑法犯罪認知数を記録したというから、成果が出ていることは間違いない。
実際、年々低下する犯罪率と反比例して、街の人気は急上昇。「穴場の街」として脚光を浴びるまでになっている。
周囲の目を意識した瞬間、街は変貌してゆく
国道4号線に沿って高層の真新しいマンションが並んで建つのが見える。新築2LDKで2,000万円台の物件も多い。若いサラリーマン世代でも十分に手が届く価格だろう。
似たような条件で埼玉や千葉のマンションを購入するよりも通勤時間が大幅に短縮できる。徒歩圏内に多くの商店や量販店があり買い物も楽だし、週末は昭和レトロの雰囲気が楽しい街を家族で散歩できる。この好条件ならば、次々に建つマンションの空室がすぐ埋まるというのも理解できる。
さて、付近の荒川まで出て河川敷遊歩道から土手の上を眺めると、どこかで見たような風景が広がる。そう、往年の人気テレビドラマ『3年B組金八先生』のオープニングシーンでいつも金八先生(武田鉄矢)が歩いていた土手だ。
「お前らは、腐ったミカンなんかじゃあなぁ~い!」
金八先生の名セリフ。自分の本当の価値を認めてくれる人がいる。世間の冷たさにすねてグレていた不良たちも、その言葉に目覚めて改心する。青春ドラマではお約束のパターンではあるが、人とはそういうもの。誰かが自分を認めてくれる、それがやる気を起こす契機になる。
街もまた同じだ。「治安最悪の街」といわれ、さげすまれているうちは、
「どうせその通りですよ……」
とふてくされ、荒廃する一方だろう。だが、
「昔懐かしい昭和の雰囲気がいいね」
世間が良いところを認めてくれた。それでやる気になる。もっと好まれる街になりたいと、周囲の目を気にするようになる。嫌われそうな要因は無くしてしまおうという意識が強くなるのだろう。
でも、中途半端な優等生になるよりも、ときどき無茶をする不良のほうが、面白みがあるが……。
首都圏「街」格差研究会●首都圏で「住みたい街」として人気の各街の実態を、フィールドワークや収集したデータをもとにして研究している集団。
青山誠●大阪芸術大学卒業。ウェブサイト「BizAiA!」で『カフェから見るアジア』を連載中。著書に『江戸三〇〇藩 城下町をゆく』(双葉新書)などがある。