福士蒼汰×工藤阿須加『ちょっと今から仕事やめてくる』映画化記念対談!

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更新日:2017/6/4

ブラック企業で疲弊した新米サラリーマンと不思議な男の交流を描いた、北川恵海の60万部超えの人気小説『ちょっと今から仕事やめてくる』が、成島出監督&脚本で映画化される。関西弁で明るいけれど謎めいた男ヤマモトを福士蒼汰さん、激務に疲れ果てたサラリーマン青山隆を工藤阿須加さんが演じた。初顔合わせながら、5カ月間のワークショップや濃密な撮影期間を経て、お互いを「すごく真面目」と認め合った二人。公開直前の生の声をお届けします。

(左)ふくし・そうた●1993年東京都生まれ。2011年俳優デビュー。ドラマ『あまちゃん』で14年エランドール賞新人賞、映画『イン・ザ・ヒーロー』『神さまの言うとおり』で第38回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画『無限の住人』が公開中。18年には映画『曇天に笑う』『BLEACH』『旅猫リポート』『ラプラスの魔女』が公開予定。
(右)くどう・あすか●1991年埼玉県生まれ。2012年俳優デビュー。翌13年の大河ドラマ『八重の桜』で主人公の弟役を演じたほか、『ルーズヴェルト・ゲーム』『家売るオンナ』『就活家族』など話題のTVドラマへの出演多数。映画出演作は『アゲイン』『夏美のホタル』『恋妻家宮本』など。第24回日本映画批評家大賞新人賞受賞。
福士蒼汰/ヘアメイク=高橋幸一(Nestation) スタイリスト=壽村太一(signo)
工藤阿須加/ヘアメイク=新井克英(e.a.t…) スタイリスト=三田真一(kiki) 衣装協力=シャツ2万4000円、スラックス2万5000円(共にユニフォーム・エクスペリメント/ソフ TEL 03-5775-2290) 、靴スタイリスト私物

    映画『ちょっと今から仕事やめてくる』メイン

映画『ちょっと今から仕事やめてくる』
新卒で入社した会社がブラック企業だった青山隆は、心身ともに疲弊したある夜、駅のホームでふらりと電車に飛び込もうとしてしまう。力強く隆を引き戻したアロハシャツの男はヤマモトと名乗り、小学校の同級生だと笑顔で隆を飲みに誘った。しかし、同級生にそんな男はおらず、ヤマモトは3年前に自殺していることがわかり――。
(c)2017映画「ちょっと今から仕事やめてくる」製作委員会
監督/成島 出 脚本/多和田久美、成島 出 出演/福士蒼汰工藤阿須加、黒木 華、小池栄子、吉田鋼太郎

 

読んで泣いた原作をまさか自分がやることに

――原作はどのタイミングでお読みになりましたか?

工藤 撮影に入る半年位前ですね。正直、泣きました。まさか自分がこの作品をやらせて頂けるとは思っていなかったので、不思議な巡り合わせというか……お話をいただいたときはびっくりしました。小説を読まれた方が映画を観ても、感動してもらえる作品になっていると思います。

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福士 自分が原作を読んだタイミングはお話をいただいてからなので、この役をやるんだと思って読みました。ヤマモトは関西人でキャラクターが強いし、引っ張っていくようなタイプだったので、難しいなとは思いました。どうこれを映画化していくのかなあと。死と向き合う話でもあるので、重いテーマだけれど、でもその重さを感じさせないヤマモトという太陽みたいな奴がいる。彼を作品の暗さをとっぱらう存在にできたらいいのかな、と思って読み進めました。海外ロケをした映画のラストはなんというか独特で、映画ならではの結末になったんじゃないかなと思いますね。最初と最後の映像のインパクトはとても強いです。

――福士さんが23歳、工藤さんが25歳と年齢も近いお二人ですが、お互いの印象をお聞かせください。

福士 出会ったのはクランクインの5カ月前、映画のためのワークショップ初日に、初めましてって。工藤さんは素朴なイメージでした。

工藤 うん、その時が初めて。福士くんとは作品に関わっている時間が長かった分、良い関係を作れたと思うけど、加藤さんの存在は大きかったですね。

福士 そう! 方言指導についてくれた芸人の加藤康雄さん(烏龍パーク)。ヤマモトがしゃべる時は基本加藤さんがいてくださるので、ワークショップもずーっと一緒で。加藤さんと三人でふざけていたことが一番記憶に残ってる(笑)。

工藤 そうそう(笑)

福士 工藤さんは真面目でストイックだなという印象がすごくある。

工藤 ほんとに? (笑) 真面目なのは福士くんだよ。

福士 どっちが真面目だと思う?くらべたら。自分は工藤さんのほうが真面目だと思います。

工藤 俺は福士くんのほうが真面目だと思う。お互いにないものを持っているからそう思うのかもしれないですけど。見た目や普段の佇まいの雰囲気で、福士くんが年上に見られることが多かったですね。加藤さんも言っていましたけれど、福士くんは人懐っこさとか、弟感というか人を惹きつける力を持ってる人ですよね。

お互いにないものを持っている二人

――お二人の真面目さの種類は違うのでしょうか?

工藤 仕事に対してのモチベーションや思いは近いはずだと僕は思ってます。そこがずれちゃって、仕事に対してどこか違和感を感じると、距離ができてしまうと思うので。そこは変わらず、二人とも同じ方向を向いていたからこそ、集中して撮影に挑めました。大変なシーンが結構あったんですけど、今集中したいタイミングなんだろうなと思ったら少し離れてみたり、逆に僕が自分の時間を取りたいなと思っている時は、福士くんが察して気を遣ってくれたりしていたと思います。

福士 それを当たり前のこととしてみなさんがやっていたと思います。もちろん工藤さんも。だから、当たり前のことを当たり前にやれていた、その当たり前の価値観が似ていたのかなあと。

――撮影が終わり、完成した映画をご覧になって、今お互いはどんな存在になりましたか。

福士 工藤さんは、僕に足りない部分をたくさん持ってると思います。

工藤 その言葉そのままお返しします(笑)。

福士 いや、試写を見てあらためて思ったんです。どこのシーンってわけじゃないんですけど、全体に役者として彼が持ってるものを、自分は持ってないっていうのが今回の映画で見えて、それは良い収穫だったと思いました。

工藤 同じことになってしまいますが、福士くんこそ、僕にはないものを持っているんです。第一線で活躍されている理由が、一緒に仕事ができてよくわかりましたね。表情の豊かさ、繊細さ、色んな状況への対応力。僕はどうしても頭で考えてしまう所があるので、そばで見ていて芝居に対する潔さを感じました。今回は一緒にやらせていただいて、気付かせてもらったことが多かったです。

福士 自分もすごくいい出会いをいただいたと思います。

見所は工藤さんが部長に怒られているところ!

――成島組はいかがでしたか。

工藤 5カ月という長い準備期間が初めてだったので、監督や福士くんや、他の共演者の方々と関わる密度が濃かったです。その分思い入れがあるし、そこから深い部分で学ばせていただけたことも多かったです。成島さんが、僕たちを息子みたいだと言ってくれていて、本当に愛情を持って接してくれたことが、とても心に染みました。だからこそ僕ももっと頑張ろうと思いましたし。

福士 そうですね。自分にとっては、かなりきつい現場でした。監督の演出が的確に自分のウィークポイントをついてくるので、撮影しながら、うわー難しいなぁ(苦笑)というのを毎日感じていました。でも、ウィークポイントをついてくれるからこそ、役者として、より速いエンジンをつけて前に進めるようになるんだと思うんです。今回はとにかくきつい、という印象だったので、今度成島さんとお仕事する時には、自分でエンジンをつけて、きつくないようにしたいなと思いますね(笑)。

工藤 福士くんは芝居だけじゃなくて関西弁もありましたし、勉強しなきゃいけないことがたくさんあったので、毎シーン毎シーン、人一倍苦労したんじゃないかと思います。

――お互いの演技の見所は?

福士 自分はあそこです。工藤さんが吉田鋼太郎さんの演じられた山上部長に怒られてるところ。すごくおもしろかったです(笑)。

工藤 おもしろいんかい!(笑)

福士 おもしろいっていうか、見所です! ほんとに泣いているし。興味深い。

工藤 あのシーンは……気付いたら泣いてて。あんまり覚えてないんですよね。意識ぶっとびかけてたので……。

福士 その感じが伝わるというか。本気感がありましたね。

工藤 福士くんのシーンは、ほんとに全部いいですよね。

福士 (笑)。

工藤 青山といる時はヤマモトの抱えてる暗い部分はあまり見えないんですが、福士くんが一人でいるシーンにそれが垣間見えるので、その差に注目して観てください。

「役者の仕事」を教わって仕事がおもしろくなった

――ご自身の仕事への向き合い方に変化はありましたか?

工藤 向き合い方というよりは、役者として、本来もっともっと深く考えなきゃいけないことがたくさんあると、成島さんに教えていただきました。台本の読み方や役へのアプローチの仕方もそうですし、役に入る前、仕事をする前の段階の自分の準備とか。そういうことをこれから先、どんどん取り入れて試していかなきゃいけないなと。まだうまく言葉にはできないんですが。

福士 自分は大きく変わりましたね。今まで、お芝居ってなんだろうなって思いながら演じていた部分があったんです。監督がOKを下さるのでOKなんだ、と思いながら、でもやっぱりずっと試行錯誤しながらやっていて。役へのアプローチも、自分なりのものでしかなかったんです。でも今回成島監督とお仕事をしたことで、役者として自分の芯となる根本から、役者の仕事というものを教えていただきました。それを経験してから、他の仕事をする際にも、その芯を持って役者の仕事をしてみると、すごくおもしろいなと思うんです。だから大きな変化は自分の中であったなと思いますね。

――この映画を観てほしい人は?

工藤 いろんな人に見てほしいけれど、特に一生懸命働いてる人かな。

福士 うん、働いてる人です。働いている人で、今、心に何かつっかえみたいなものがある人に観てほしいと思います。大満足して仕事してる人は観なくてもいいかもしれません(笑)。

工藤 いいの?(笑)

福士 つっかえてる人はぜひ!

 

■爽やかな二人が希望に向かう映画を― 成島 出(監督・脚本)

なるしま・いずる●1961年山梨県生まれ。大学の映画サークルで監督した『みどりの女』でぴあフィルムフェスティバルに入選。助監督として相米慎二監督、平山秀幸監督らに師事。『八日目の蟬』で第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞、第62回芸術選奨文部科学大臣賞映画部門を受賞。ほか受賞多数。

 原作の読後感が良くて、最初は脚本家として参加したんですが、思い入れがあって、監督もやらせていただきました。脚本の段階では青山を助けたいという気持ちでしたが、監督になって感覚が変わりました。希望を失うことがあっても、それは見えなくなっているだけで、やがて解放されるんだよ、人生って捨てたもんじゃないよ、と。タイトルもユーモアがあるし、希望に向かう映画にしようと。

 その思いに対して、蒼汰と阿須加という爽やかな二人はとてもハマりましたね。僕の映画はクランクインの1週間ぐらい前からワークショップに入るのですが、二人が多忙でスケジュールが取れなくて、飛び飛びで5カ月前からスタートしたんです。蒼汰も阿須加もそれぞれの宿題を持ち帰って、また集まってというのを繰り返した。阿須加はスーツ姿で電車に乗って、長い時間役作りができたし、リハーサルをやってみてシナリオも直せるし、結果としてすごく良かった。蒼汰は関西弁も外国語も全部トレーニングしたセリフで、不安もありましたが、関西の人が見ても違和感がないくらい見事にやり切ってくれた。半年近く一緒だったので、二人は本当に仲良くなって。手を握る、という演出のポイントがあって、そこが嘘くさくなると嫌だと思っていたんですが、仲良くなってくれたので自然な感じになったと思います。

 僕の映画は常にテーマのひとつとして、魂の解放を目指します。この映画も、ただ友情のハッピーエンドだけではなくて、ニ人の魂が解き放たれる瞬間で終わりたかった。小説では気にならないことが、生身の人間が演じる映画にした場合すごく気になる、という部分が結構あるので、脚色でいろいろ変えてはいるんですけれど、北川さんから受け取った「読後感の爽やかさ」というバトンは、映画でも一番大切にしました。映画を観た人が、明日に希望を持てるように、説教ではなく、背中を押してあげられたらいいなと思います。

■映画『ちょっと今から仕事やめてくる』に寄せて―寄稿 北川恵海(原作)

きたがわ・えみ●1981年大阪府生まれ。『ちょっと今から仕事やめてくる』で第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉。『ちょっと今から仕事やめてくる』スピンオフ短編が公式サイトで公開中。
http://mwbunko.com/special/sp10/

 本作は私のデビュー作であり、思いっきり書きたいことを詰め込んだ一作でもあります。仕事を辞める―難しいテーマです。人には多様な人生観があり、それらは過ごしてきた時間によって形成されていて、容易く変えることなどできない。相容れないこともたくさんあります。だからこそ、本作に託した思いが多くの人に伝わったことが本当に嬉しく、同時に「みんな疲れているんだな」と少し切なくもなりました。

 先日試写を拝見しました。映画と小説の一番の違いは『映像がダイレクトに目に飛び込んでくるか否か』でしょう。いや当たり前のことなんですけどね。本当に映像が美しく、これが成島監督の頭の中に描かれていたのか……と思うと羨ましくなるほどでした。

 福士さんと工藤さんは、素晴らしく繊細に演じてくださっていました。福士さんはすっかり『気のいい関西の兄ちゃん』に変貌されていて、くるくる変わる表情が可愛いのなんの。工藤さんは見ていて辛くなるほど全身から疲れと絶望が溢れ出していました。そんな中で二人の軽快な掛け合いがほっこりします。そして二人が大切なことを語りかけてくれます。幅広い世代の方に観ていただきたい、心からそう思う作品です。

■映画原作関連書

希望の企業が全滅で、中堅の印刷会社に就職した青山隆。しかし、夢と希望を持って入社した会社は、ブラック企業だった。激務に思考能力を奪われ、無意識に自殺を考えた隆を救ったのは、見知らぬ男ヤマモト。読後感が爽やかな、人生リスタート小説。

大人気ベストセラーの完全コミカライズ。……というだけでなく、小説や映画にはない、マンガのオリジナルエピソードやセリフも入っていて、作品世界が拡がるコミカライズになっている。著者は有栖川有栖作品のコミカライズも手がける実力派。

コンビニ店員・田中修司は、同僚から頼まれて「ヒーローを作る」会社で臨時アルバイトをすることに。1週間の代理のつもりが、やがて正社員となり――。最新刊『続・ヒーローズ(株)!!!』でも修司の奮闘は続く。著者渾身の人生応援ストーリー。

取材・文=波多野公美 写真=冨永智子