尾崎世界観(クリープハイプ)「これが好きそうだからと薦めて貰うのは凄く嬉しいですね」
公開日:2017/5/6
昨年、初の小説『祐介』を執筆し、ミュージシャンに加えて小説家という肩書が増えた尾崎さん。それまで本屋には頻繁に行っていたそうだが、『祐介』刊行後は足が遠のいてしまったという。自身の小説が置いてあるのが恥ずかしいのかと思いきや。
「逆ですね。本屋は昔から大好きなんですけど、自分の本が置いていなくて、他の人が書いた本が展開されいると悔しくなるので(笑)。少し悲しい思いをしています」
とはいえ、相変わらず本は読んでいるそう。
「この前、ライターの橋本さんから『人間滅亡的人生案内』を“きっと気にいると思うから”と貰ったんですけど、これは面白かったです。人生相談本なんですが、全部同じことしか答えてないんです。人間は虫と植物と同じだから何も考えないことが正解だとずっと言い続けている。いろいろ悩んで音楽や小説を作っている自分の仕事も否定されているような気になってくるんですけど…」
今回、紹介してくれたのは『楢山節考』などで知られる深沢七郎さんの『人間滅亡的人生案内』。戦後の文壇で異彩を放った奇才の人生相談は突拍子もない答えばかりで驚く。
「最初は順番に読んでいったんですけど、あまりにも同じ質問が続くから、少し飛ばして、山下(澄人)さんの解説を先に読んだら、山下さんも“全部読んでない”と書いてあって。“ああ、それでいいんだ”って(笑)。解説含めて作品だなと思いました。解説が凄くいいんです。だから、自分の体験として、今、読めてよかったです。そこからは好きなところから時間をかけて読みました」
真面目に悩む若者に、その若者が望んでいないであろう返答をする深沢さん。その噛み合ってなさ加減のギャップが面白い。
「雑誌の連載だそうですけど、けっこうユルいんですよね(笑)。答えるときも相手の名前をフザケて書いたり。文字数も関係なくて、何ページも使った答えがあるかと思いきや、5行くらいで終わったり。きっと気分が乗らなかったんでしょうね(笑)」
本屋に行くことは減ってしまったというが、小説を出したことで本との距離はより近くなっているよう。『人間滅亡的人生案内』を勧めて貰ったのはとても嬉しかったそうだ。
「これが好きそうだからと薦めて貰うのは凄く嬉しいですね。実際、自分も友人と飲んでるときに、“ちょっと待っていて”とオススメ本を家に取りに行って渡したりしますね。だから、家に本はたくさんありますけど、一定量をキープしています。入ってくると出ていく(笑)。それでいいと思っています」
(取材・文=高畠正人 写真=キムラタカヒロ)
おざき・せかいかん●1984年、東京都生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。2012年に『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。昨年6月には初小説『祐介』(文藝春秋)を発表。現在、文春オンラインで『失敬エンタテインメント!』を連載中。
『楢山節考』や『風流夢譚』で知られる著者が、雑誌『話の特集』で1967〜69年に連載した人生相談をまとめた一冊。人生に悩み、真面目に相談する若者たちに対し、「人間滅亡教」の教主となった深沢が逆説的な言い回しで答える。文庫本には「全文を読んでいない」という作家・山下澄人による秀逸な解説を収録。
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