この男、強すぎる…! 警視庁の若手刑事が非合法ドラッグの闇を暴く、痛快警察小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『キルワーカー 警視庁組対特捜K(中公文庫)』(鈴峯紅也/中央公論新社)

警視庁の若きホープにして、剣の道を極めた達人。
頭脳明晰で、運動能力も抜群。
そのうえ、天性の明るさとまっすぐな気性で、出会う人みな魅了する――。

そんなスーパーヒーローが今、警察小説界をにぎわせている。「警視庁組対特捜K」は、27歳の刑事・東堂絆を主役に据えた人気シリーズ。今年3月に第3巻『キルワーカー 警視庁組対特捜K(中公文庫)』(鈴峯紅也/中央公論新社)が発売され、大きな話題を呼んでいる。

Kこと絆が所属する「組対特捜」とは、警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊の略称。暴力団、銃器や薬物を扱う密売グループ、外国人犯罪組織などの情報を集め、犯罪の種類を問わず横断的に組織を取り締まる部署だ。「ティアドロップ三部作」と称される既刊3巻で描かれるのは、非合法ドラッグをめぐる犯罪。目薬のような新型ドラッグ「ティアドロップ」を奪い合い、ヤクザ、半グレ、中国マフィアが血みどろの抗争を繰り広げていく。謎の探偵・片桐とコンビを組んだ絆は、幾重にも張り巡らされた巧妙な罠をかいくぐり黒幕に肉迫。しかし、敵は絆の恋人にまで魔の手を伸ばし……!?

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そして最新刊、黒幕が絆に差し向けたのが「キルワーカー」の異名をとるヒットマン。6億円という法外な金で雇われた殺し屋は、絆だけでなく彼の先輩刑事や地元の幼なじみをもその手にかけようとする。殺るか、殺られるか。互いの命を賭した戦いは、ヒリヒリするような緊迫感に満ちあふれている。

このアクションシーンが、すこぶる面白い! キルワーカーが銃のレーザーポインターで絆の胸元を狙えば、絆はすかさずその気配を察知。気を練り、気を固め、一瞬ですべてを放出することで時間軸を揺らす〈空蝉〉で、凶弾を回避する。またある時は、ナイフを手にしたキルワーカーが、絆を襲撃。自在に関節を外せるキルワーカーは、鞭のようにしなる斬撃で絆を屠らんとしてくる。しかし、絆には気が〈観〉える。相手の発する気を察知し、スッと体を引いたかと思うと、敵の手元に特殊警棒を叩き込む!! さすが祖父から受け継がれた正伝一刀流を極め、〈自得〉の境地に達した男。山田風太郎の「忍法帖」シリーズもかくやの痛快な活劇に、痺れるような興奮を覚えてしまう。三部作のラストを飾る作品とあって、後味も爽快。作中では悲しい出来事も起きるが、絆の明るさゆえか清々しい読後感を味わえる。

見どころは、まだまだ尽きない。著者の鈴峯氏は、本シリーズのほかに「警視庁公安J」シリーズも執筆している。エリート公安捜査官のJこと小日向純也が「K」シリーズに登場したり、「J」で起きた事件が「K」とつながっていたりと、ふたつの物語のリンクをたどる楽しみも待っている。例えば「K」シリーズ2巻のクライマックスで、ある人物が「2年前に、人に恩を売るようなことがあった」と語る。作中ではその詳細は明かされないが、「J」シリーズ3巻を読むと何を意味していたのかが判明。「そういうことだったのか!」という驚きとともに、深い感慨を抱くこととなる。「K」と「J」をあわせて読めば、ワクワク感は2倍、いや3倍、4倍に。しかも現在、新シリーズ「Q」も執筆中とのこと。広がる「鈴峯ワールド」から、今後も目が離せない!

文=野本由起

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