無職のおっさんがチート性能で転生! 40代の夢と悲哀が詰まった『アラフォー賢者の異世界生活日記』
更新日:2017/6/4
異世界に転生した主人公の活躍を描く「異世界転生モノ」が、小説投稿サイト「小説家になろう」を中心に、ライトノベルやアニメなどで人気を集めている。『アラフォー賢者の異世界生活日記』(寿 安清:著、ジョンディー:イラスト/KADOKAWA)もまた「~なろう」で発表され、2016年に第1巻が書籍化された作品だ。最近は一口に異世界転生モノといってもその形態はさまざまだが、本作の骨子は主人公が最強の能力を持って異世界に転生するという、王道中の王道、どストレートな異世界転生モノだ。
主人公はリストラに遭って以降、パソコンにのめり込む日々を過ごす40代のおっさん・大迫聡。オンラインゲーム内でさまざまな魔法を開発し、トッププレイヤーに君臨したものの、ログイン中に発生した事故で死亡。気付けばゲーム内のステータスを引き継いだ魔導士ゼロス=マーリンとして、異世界に転生していたのだった。ゼロスは異世界を放浪する中で盗賊に襲われる元公爵のクレストンを救出。その能力を買われ、魔法が使えない孫娘セレスティーナの家庭教師を任される、というのが導入である。
ゼロスの能力は、人知を超越したあまりに非常識で驚異的な魔法だ。騎士たちが束になっても叶わない凶悪な魔物を一人で瞬殺できるだけでなく、人が絶対にたどり着けない領域とまでいわれる広範囲殲滅魔法すら操ることができる。さらに、元プログラマーの経験を活かして転生した世界の魔法術式をあっという間に解読し、セレスティーナが魔法を使えないのは術式の欠陥であると看破。プログラミングの要領で書き換えた術式を使用することで、魔導士としての第一歩を踏み出すことに成功する。
既刊の第1、2巻ではセレスティーナの兄でありドラ息子のツヴェイトを更正させ、厳しい訓練で兄妹をめきめき成長させたほか、土木・建築などに役立つ術式を開発し、ゆるやかに技術を発展させた。戦闘でも、教育でも、国家事業でも、すがすがしいまでの「無双っぷり」を見せてくれるのだ。
ところが、ゼロスのモットーは「穏やかに生きること」。決してみだりに力を誇示することもなければ、権力欲もなく、世界の均衡を崩すような急速な技術革新を起こすこともない。それは、過去に有能なプログラマーとして奮闘し、あることをきっかけに社会からドロップアウトしてしまったことが大きい。ゼロス=大迫聡にとっては、異世界であろうとなんであろうと平穏無事に生きることが無上の喜びなのだ。誰もが羨む力はほしいけれど、面倒ごとには巻き込まれたくない。趣味と仕事をバランスよく楽しみ、時に好みの女性に鼻の下を伸ばすような、そんな幸せな生活がしたい。本作からは、社会の荒波に揉まれるアラフォーの夢と悲哀が感じられ、ちょっと疲れた同年代のおじさんならきっと共感できるのではないか、と思うのである。
さて、4月25日に刊行された第3巻では2人の弟子の学院生活が再開し、家庭教師としてのお勤めは一旦終了。学院で無能者のそしりを受けていたセレスティーナは才女として頭角を現し、派閥に縛られていたツヴェイトは独自に魔法研究を深めていくという2人の成長が描かれる。ゼロスとともに2人を見守ってきた読者としては我が子の成長を目の当たりにするようでなんとも嬉しい限り。
一方で、無双続きだったゼロスにはかつてない脅威が訪れようとしていた。あらゆる生物を取り込む凶悪な魔物に、自分と同等の力を持つ謎の魔導士の出現と、スリリングな展開が満載。どうやら、アラフォーおじさんの平穏な日々はまだまだ遠いようだ……。
文=岩倉大輔
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