なぜ、パリは美しい都市になったのか? 都市の歴史を知れば、ビジネスの武器になる!
公開日:2017/5/10
『グローバル時代の必須教養「都市」の世界史』(出口治明/PHP研究所)は、ビジネス界きっての知識人が綴る、ビジネスマンの教養を深めるための一冊だ。
著者の出口治明氏はライフネット生命保険の代表取締役会長。「そんな人が、どうして世界史について語るの?」と思われるかもしれないが、出口氏は旅と読書をこよなく愛し、今まで1200以上の世界都市を訪れ、読んだ本は1万冊を超えるという「経験」と「知識」を併せ持った人物なのだ。
本書はその出口氏が「都市」を軸として、本格的な世界の歴史を語った一冊。高校の教科書よりもやや専門的だが、分かりやすい解説を加えたイメージだろうか。だが、「学生」や「歴史好き」だけではなく、ビジネスマンにも読んでもらいたいという意図があるそうだ。
(都市の歴史は、海外で)ビジネスをするときに、交渉相手との会話の潤滑油にもなります。どこの国であれ、面白い人間だと一目置かれなければ、土台、交渉は上手くいきません。相手の住んでいる都市を知ることは、一つのキラーコンテンツになるのです。
そこで、本書に紹介されているのが、歴史を動かした10の都市。
古代から1700年もの間、世界の主人公だったという「イスタンブル」(トルコ)。
長く複雑な歴史と多民族の文化が今も息づいている「デリー」(インド)。
多くの民族が入れ替わり支配者となり君臨した、英雄たちの夢と挫折の都「カイロ」(エジプト)。
中央アジアのオアシス。草原の英雄たちが多くの物語を残した青の都「サマルカンド」(ウズベキスタン)。
安禄山、クビライ、永楽帝――3人の巨人が完成させた都「北京」(中国)。
今も昔も「人種のるつぼ」であった自由の天地「ニューヨーク」(アメリカ)。
都市の歴史が国の知恵と富の源に。商人と議会の都「ロンドン」(イギリス)。
ヒトラーも破壊できなかった美しい街・花の都「パリ」(フランス)。
元々は森と川のある片田舎の集落に過ぎなかった「ベルリン」(ドイツ)。
古代ローマから続くヨーロッパの憧れと誇り。昔も今も永遠の都「ローマ」(イタリア)。
たとえば、なぜ、パリは美しい街になったのか。
第二次世界大戦でヨーロッパの主要都市のほとんどが潰滅状態となった中、パリだけはその文化的な価値や美しさから空爆を逃れ、パリを占領していたヒトラーが退去する際の「パリを燃やせ」という命令も、部下の将軍によって拒否されたそうだ。
それほどまでに人々を惹きつけるパリの魅力は「フランスの歴史に出てくる多くの有名人がつくった建物や公園が、きちんと残っている珍しい都市」であり「それぞれの歴史上の人物たちが、『我がパリ』を愛した結果が、具体的に残されている」ことだという。
パリには強い権力者が出現し、都市計画を果断に実行できた。昔から何事も議会で決めるロンドンでは、都市全体をひとつの理想に合わせて改革するという発想がないのに反して、強い権力者を生み出したフランスは「理想の街づくり」を実現できたのだ。
本書の内容は、世界史を全く勉強してこなかった読者にとっては、やや難易度が高いかもしれない。しかしだからこそ、様々な発見をもたらしてくれると思う。また「高校生の時に世界史の授業を選択していた」方にとっては、それを「王朝」や「人物」ではなく、「都市」から明らかにしていくという切り口が斬新に感じるだろう。
ボーダレス化が進み、また、2020年には東京オリンピックも控えている。世界の名立たる都市を通して、その国の歴史を知っていることは、思いがけない「ビジネス」や人との「縁」を繋げる可能性があるかもしれない。
文=雨野裾