空気を読む文化は、積極的に破壊する! “イケメンの無駄遣い”なニューヒーロー登場『ひねくれ杉くん』
公開日:2017/5/11
6歳にして「『察して?』的な空気を積極的に殺していきたい」と決意した杉くんは、まさに“イケメンの無駄遣い”を体現する高校生。“自己擁護と自己演出にまみれたぶりっ子”と称された、筋金入りの空気読み少女・仁子。そんな2人の友達以上恋人未満なスクールライフを描いた『ひねくれ杉くん』(樫八重子/白泉社)、待望の1巻が5月2日に発売された。
友達以上恋人未満――古くからの定番文句で、それなのに決して廃れることのないじれったくも甘酸っぱい響きだ。だが、その空気感さえ、杉くんは全力で粉砕しにかかる。「杉くんと一緒にいたい」と意を決して伝えた仁子が、「もちろん友達として」と顔を赤らめ付け加えると、間髪入れずに「当然だろ、血迷うなよ」。杉くんの初恋の人に少し似ていると言われ、彼を意識し始めてしまった仁子が「もしかしてこれは……恋……?」とどぎまぎするのを見て、真剣な面持ちで迫り告げたは「お前恋愛脳になっていないか?」。
そうして杉くんは、ときめきのかけら、ラブの予感、少女マンガならお約束の気配をことごとく潰していく。なぜか? それは杉くんが大嫌いな“「察して?」的な空気”だから。曖昧さを許さない杉くんは、とことん恋愛マンガに向いていないヒーローなのである。
だがそれなのになぜだろう。そんな彼を、かっこいいと思ってしまうのは。
ありのまま、正直でいること、そのすべてが善だとは限らない。だけど自分をねじまげてまで、空気を読む必要があるとも思えない。見つからない正解を探して右往左往するのが人間関係だ。そんななかで、あえて曖昧さを殺していくと決めた杉くんは、とほうもなく潔い。しかも彼は、自分の正義を他人に押し付けたりしない。「嘘言ってでも好かれたい、私は友達が欲しい」と叫んだ仁子に、本音を言ってくれた喜びをあらわにしたように。彼はただ、不必要な嘘やごまかしが嫌いなだけ。婉曲な物言いで真意が伝わらずに誤解を生んだり誰かを傷つけたりするくらいなら、最初から正直に伝えたほうがよいということを、その身をもって証明しているだけなのだ。
もちろん、正直すぎるせいで誤解を生むことも多々あるし、杉くんの行動ははたから見ていて危なっかしい。けれど、どうせ誤解を生むのならば後者のほうがまだましかもしれないと、杉くんは私たちに思わせてくれる。
これまで、「これは友情? それとも恋?」と思い悩むヒロインが、悶々とした末にからまわって好きな人とすれ違い、傷つき傷つけられを繰り返す恋愛マンガは多く見てきた。だが、仁子はちがう。「友情だろうが恋だろうが、杉くんを好きだという気持ちは変わらないし、一緒にいたい」とはっきり伝えた。そのストレートさが、曖昧な人間関係で傷ついてきた杉くんの心をド直球に救うのである。それはとても新しいタイプの“友達以上恋人未満マンガ”であるような気がする。1巻で完結するのが惜しくてならない、その後の2人を妄想したくなる作品だ。
文=立花もも