日本全国「海の見える無人駅」とびっきりの30駅! 美しい風景の向こうに見えてくる多彩な旅の記録
公開日:2017/5/13
梅雨を迎えるまでは、爽やかな日が続く。休日 晴れたら、ちょっと遠出をしたくなる時期でもある。さて、山で過ごすか、それとも海を眺めに行くか。
本書『海駅図鑑 海の見える無人駅』(清水浩史/河出書房新社)は、全国のJR・私鉄・第三セクターにある海に面した駅から、更に厳選の30駅を「海駅」と命名。電車で現地に入り、各駅の利用状況や、周辺地域への訪問の様子が、生き生きと温かな視点で書かれている。時には、その地域に縁のある文学作品や戦禍の歴史から、あるいは自然環境の変化から、検証しつつ 、読み進められる一冊だ。
本書が「海駅」とする“定義”とは何か。ここでハッキリさせておこう。
・駅のホームから海が見える―――美しい磯や浜が見える
・ホームからの眺めが優れている――視界が開けている、海を取り巻く絶景がある
・レトロな雰囲気がある――木造駅舎や古いベンチなど、鄙びた駅の佇まい
・駅員がいない――無人駅
・ひっそりとした趣きがある――駅の周辺に大きな人工物がなく、静けさがある
・駅周辺に知られざる場所や物語がある――海駅から「その先の旅」ができる
いくつか「海駅」を取り上げてみる。下灘駅(愛媛県・予讃線)は、JRの青春18きっぷポスターに起用され、全国区の人気を誇る有名どころ。東北は、東日本大震災で津波被害を受けた有家駅(岩手県・八戸線)、浦宿駅(宮城県・石巻線)が、復旧の様子や地元の人たちの現状のルポを交えて書かれている。浦宿駅がある女川町では、震災当時、まだ中学生だった若者たちが発起人となり、千年後も津波から命を守るための活動が続く。馬路駅(島根県・山陰本線)では、最寄りの琴ヶ浜海岸で「鳴き砂」と「砂時計」の関係に、思いがけず、人生の深いところを考察することになる。他にも、夏の4日だけ営業する「幻の海駅」で下車して、近くで海水浴を楽しむなど、各駅を紹介する切り口が多彩だ。まるで著者と一緒に旅をしているような気分になり、楽しくもあり、考えさせられたりもする。
著者は編集者・ライター。国内外の海と島の旅を続け、ダイビングインストラクターの免許を持つ。一般には、なかなか上陸が難しい島を集めた本『秘島図鑑』も著者によるもの。⇒レビューはこちら
ひっそりとした無人駅のむこうに海原が見える。そんな「海駅」を起点に、そこに住む人達と交流したり、歩いてみたりすることで、暮らしや歴史、市井の文化が、各駅いろいろ見えてくる。「海駅」のホームで、ほんのひととき、光景を眺めながら、ノスタルジックな非日常を味わう。著者も「日ごろの“澱(おり)のようなもの”を洗い流そう」と語る。ひょっとしたら「海駅」には、心や頭をクリアにする力があるのかもしれない。
巻頭には「海駅」30全てが見開きのカラー写真で掲載。旅情に満ちている。また、写真横に載っている、駅ホームから海が見える度合を表した「眺海度」は、最高が五つ星。ぜひ、ホームで海を眺め、ぼんやりしたい時の参考に。
まもなく初夏を迎える。あなたも「海駅」に降り立ってみませんか。
文=小林みさえ