幽霊、自殺、下着泥棒…賃貸マンション、アパートで起こる不動産泣かせのクレームとは?
公開日:2017/5/18
春の引っ越しシーズンが一段落するこの季節。転勤や初めての一人暮らしで不動産屋のお世話になった人もいるのではないだろうか。
不動産屋といえば客の要望に合った部屋を探して、案内をして、契約の手続きをするのが仕事だと思われがちだが、それだけではない。大変なのは入居が始まってから。
『お客様、そのクレームにはお応えできません!』(三浦展/光文社)はベストセラーとなった『下流社会』の著者による初のフィクション小説だ。不動産屋への豊富な取材をもとにした物語の主人公は新宿にある不動産屋フレンズホームの賃貸部門の女店長滝山玲子。42歳。彼女が管理するアパートやマンションの客からは次々に思いもよらぬクレームの電話がかかってくる。
えっ? こんなことまで……困ったクレーマーたち
トイレットペーパーホルダーのネジがゆるんだ。部屋に幽霊が出る。些細なことから、対応に苦慮するものまで、タイトル通り「お客様、そのクレームにはお応えできません!」と叫びたくなるようなことを言われても、入居者はお客様。どんな無理難題でも心の中で悪態をついても、親切丁寧に対応しなければならないのが不動産屋の仕事だ。
近年はスマホ絡みのクレームも急増して、生活騒音や入居者同士のトラブルもあとを絶たない。中には仕事の鬱憤を晴らすためにしつこくクレームの電話をしてくる客もいるというから入居中の客からの電話はなんとも恐ろしいものなのだ。
○○を見れば滞納者かどうかが分かる
賃貸管理の中でもっともハードな業務のひとつが家賃の督促だ。100円の物を万引きしても警察沙汰だというのに、10万円の家賃1、2か月分を払わなくてもすぐに退去を迫ることはできない。連絡が取れない滞納者の職場に督促の電話をかければ名誉棄損だ、損害賠償だと逆ギレされることも。滞納者に対しては細心の注意を払って丁寧に対応しなければならないのだ。
フレンズホームには督促の神と呼ばれる女性スタッフがいる。街ですれ違った人の服装や体形を見れば滞納者か分かるというほど。
彼女の長年の勘と経験はフレンズホームの入居審査でも大活躍している。督促の神が教える滞納者の特徴とは? これは結婚相手を探す時などにも役に立つかもしれない。
この他にも自殺騒動や下着泥棒など賃貸マンションやアパートで起こる奇想天外な事件が描かれているが、本書は小説よりも奇な事実をもとにした「実録」ライトノベルだ。
日々クレーム処理に追われるストレスフルな不動産屋で生き残れるのは事件が起きると血が騒ぐタイプの人間だ。滝山玲子はまさにその典型。店長として入居者からの無理難題には怒りを抑えて冷静に対応しながらも、トラブルの現場には先陣を切って乗り込んでいく。
筆者は不動産会社の賃貸管理部で働いた経験があるので本書に登場する数々のエピソードは実にリアルに現場の様子が描かれていると感じた。 賃貸にまつわる裏話も満載の本書を是非手に取ってみてほしい。
文=鋼 みね