これぞ大人の社会科見学! 伊坂幸太郎やいがらしみきお、住職やこけし職人まで、モノが“生まれる”現場をイラストレーター がリポート
公開日:2017/5/19
子供のころ、社会科見学で工場を訪ねるのが楽しかった。大きな機械を操りながら製品を生み出していく大人たちが、かっこよくてわくわくした。時々お店の軒先で、うどんを打ったり硝子細工をつくったりする姿を披露するのは、何かが“生まれる”現場に、人が本能的に惹きつけられるからだろう。『仕事場のちょっと奥までよろしいですか?』(佐藤ジュンコ/ポプラ社)は、生み出す人々に惹きつけられた著者による、大人の社会科見学だ。
書店員を経て、イラストレーターになった著者。こけしの胴体図案をつくる仕事を引き受けたことが本書を描くことになったきっかけだ。こけし工人の重鎮である小笠原義雄さんの仕事場で、佐藤さんが目にしたのは、貪欲な好奇心で目をきらめかせる姿。引き継がれてきた伝統の手法をただ守り続けるだけでなく、発想を加えて新しさを生み出し続ける小笠原さんに魅了されたのを入り口に、「つくる」をテーマにさまざまな専門職を訪ねることになったのだ。その中からここでは二つの職業を紹介しよう。
漫画家 いがらしみきお(P50)
みんな目を血走らせながら机にかじりついているんじゃないか……と、フィクションで描かれるような“修羅場”を連想する人も多いだろう、漫画家という仕事。そういうときもあるのかもしれないが、『ぼのぼの』などのヒット作を生み出したいがらしみきおさんの生活はとても規則的だ。毎朝6時にめざめて、お散歩や亀の世話をしてから10時に出勤。19時には家に帰って家族の時間を大事にするという。ペン入れする机の隣には大きなパソコン。80年代から活躍するいがらしさんも、やはりデジタルの時流には抗えないのね……と思いきや、パソコンが一般的になるずっと前から、いがらしさんはゲーム作りをするなどパソコンを駆使していたというから驚きだ。新しいものをおそれるのではなく、積極的にとりいれ利用していくのが、斬新な作品を生み出す秘訣なのだと教えられる仕事場なのだ。
鳥瞰図絵師 青山大介(P66)
上空から斜めに見下ろす視点で、建物や地形を精密に描く「鳥瞰図」。日本では奈良時代、海外ではレオナルド・ダ・ヴィンチの時代から用いられている製図技法だという。もちろんただ情報として残すだけならいまの時代、衛星画像で事足りる。だがそれを、人の目を通した色彩感覚と感性で描き出すから、地に足のついた、ぬくもりあふれる地図になる。そして何より、上(航空写真)から、斜め(ヘリコプター)から、そして下(地上)からの3視点でとらえたからこそ、再現できる立体感。高齢化が進み、人数も減ってきた絵師の仕事を地道に進化させ、そしてより多くの人に届けようとする青山さんには多くのファンもついている。こんな職業があったのか!というそもそもの驚きから、その精緻な仕事ぶりに心を揺さぶられる体験だ。
ほかにも、花火や染め物、ステンドグラスなどの職人をはじめ、小説家・伊坂幸太郎さんや、グラフィックデザイナー・寄藤文平さん、さらには住職やバーのママなど、仙台を中心に15名の「つくる」現場をレポートした本作。ぜひとも第2弾を期待したい。
文=立花もも