もう路面電車は、過去の遺物ではない! 進化を続ける路面電車の最新事情

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公開日:2017/5/22

『よくわかる路面電車の基礎の基礎』(路面電車Ex編集部/イカロス出版)

 今年の4月であの熊本地震より1年を迎えた。熊本市内には熊本市交通局が運行する路面電車も走っており、やはり被害を受けている。しかし、被災から4日後には全線復旧する快挙。その迅速な対応は災害からの復興に一役買っていた。当時の被災地は深刻なガソリン不足で、市民の移動には各自で車を使うよりも路面電車のほうが効率的だったからだ。また災害ボランティアに対し運賃を免除し移動手段を確保したのも、渋滞緩和とガソリン対策になっている。なにより、市民が普段から親しんでいる交通機関の復活は希望の光となっていたのだ。

 このように地域によっては重要な市民の足である路面電車だが、全国的にはマイナーな存在で、乗ったことがない読者も多いだろう。そこで良い参考書となるのが『よくわかる路面電車の基礎の基礎』(路面電車Ex編集部/イカロス出版)だ。

 本書では国内19の路面電車事業社を網羅。基礎の基礎と名乗るだけあって、車両の仕組みに線路や施設の解説は勿論、各部署で働く職員の役割も紹介。さらには路面電車を製造する3大メーカーに、過去の車両を展示している全国の博物館まで豊富なビジュアルで紹介されており、乗ったことがないという人でも、これ一冊でかなりイメージできるのではないだろうか。

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 例えば、かつての路面電車は単体1両で走るイメージだったと思うが、現在は輸送力を上げるために2~3両編成の連接車両も増えている。先の熊本市交通局をはじめとし、広島電鉄や福井鉄道などが挙げられる。また、乗り降りがしやすいように床面を低くした超低床化車両も増えている。普通の電車だと床下に機器を集中させるが、それらを路面電車では屋根部分にも配置し、さらに車輪とモーターの小型化で対応している。

 こうした低床車両をLRV(Light Rail Vehicle)と呼ぶ。それとは別にLRT(Light Rail Transit)という言葉もある。これは「中量軌道交通」という意味で、アメリカにおける新しい路面電車システムを表す言葉として生まれたそうだ。

 ところで、路面電車の定義とは何だろう。辞書には「一般道路上に敷設されたレール上を走行する電車」とある。確かに件の熊本市交通局は一部を除いて、道路を車と併走しており、また札幌や函館の市電も道路上を走り観光客にも大人気だ。しかし東京都内に残る都電荒川線で道路上を走るのは王子駅前停留所~飛鳥山停留所間と、早稲田停留所手前の僅かな区間を残すのみだし、同じ都内の東急世田谷線は全線が専用路線だが、法的には路面電車扱いだという。「路面を走らないのに路面電車」というのは、以前から不思議な気がしていた。

 本書によると「厳密にいえば【軌道法】という法律により敷設される」路線が路面電車と呼ばれるそうだ。そしてその【軌道法】だが、原則として路線を道路に敷設することとなっている。元々、路面電車は旧・建設省の管轄で、旧・運輸省が管轄する鉄道とは区別されていたのだ。とはいえ、先述の荒川線は元々道路から独立した専用線が多く、さらなる渋滞緩和のために、他の道路上の路線を専用線に切り替え現在の姿となった。また世田谷線にしても、元は「玉電」と呼ばれ、1969年まで国道246号線上を走っていた路面電車の支線だったという歴史背景がある。個人的には「もうみんなLRTと呼べばいいのに」と思う次第だ。

 昭和の中頃まで、路面電車は交通渋滞の元凶として廃止される一方だったが、現在では人と環境に優しい交通機関として注目されている。熊本市交通局ではさらに利便性を上げるため、路線延伸を計画。また、2015年12月20日より札幌市電が環状線化されたのも記憶に新しい。この他でも、今まで路面電車を持たなかった栃木県宇都宮市では賛否があるものの、導入が検討されているという。未だ進化を続ける路面電車に、ぜひ一度乗ってみてほしい。

文=犬山しんのすけ