美大以外は「一般大学」、芸能人アーティストは大嫌い! 『美大生図鑑』著者が語る美大生あるある

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更新日:2017/6/12

『美大生図鑑 あなたの周りにもいる摩訶不思議な人たち』(ヨシムラヒロム/飛鳥新社)

 美大の“あるある”をこれでもかと詰め込み、「美大生は“変わり者”を自己演出している」「『ハチクロ』で描かれる美大はフィクション」など、物議を醸しそうな意見も多く登場する『美大生図鑑』(飛鳥新社)。「本では毒を抑えめにした」という著者のヨシムラヒロム氏が、各方面へのディスを撒き散らしながら美大を語ったインタビューの後編をお届けする。

【前編はこちら】『美大生図鑑』著者が断言!『ハチクロ』の美大はヘンリー・ダーガーの作品くらい非現実

ヨシムラヒロム氏。1986年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。 イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。小学館@DIME「ヨシムラヒロムの勝手に宣伝部長」、学研GetNavi web「一階通信」、 美大生の総合情報メディアPARTNER「コラムニストの憂鬱」を連載中。

 美大の“あるある”をこれでもかと詰め込み、「美大生は“変わり者”を自己演出している」「『ハチクロ』で描かれる美大はフィクション」など、物議を醸しそうな意見も多く登場する『美大生図鑑』(飛鳥新社)。「本では毒を抑えめにした」という著者のヨシムラヒロム氏が、各方面へのディスを撒き散らしながら美大を語ったインタビューの後編をお届けする。

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――この本の中の話では、美大生の人たちが美大以外の大学を「一般大学」と呼ぶという話が面白かったです。これは選民意識の現れなんでしょうか?

ヨシムラ 大半の人は「違う!」と否定すると思いますけど、確実に選民意識ですよ。「一般大学のやつらがさ~」みたいな言葉って、美大では超フツーに聞きますし、基本的に美大生は「自分はセンスがある」って思ってますから。

美大生の時代はとにかく「すごいね」と褒められ、一般大学とは違う気分を味わえる。だが社会に出ると、一般大学出身者の事務的能力の高さに驚愕し、社会に通用しない自分に落ち込む人も

――「美大生は芸能人アーティストが大嫌い」とも書いてありましたが、それも選民意識から来るものなんでしょうか。

ヨシムラ それは少し違う文脈ですね。美大生のなかには、頑張って勉強している人もいるし、苦労して学費を払って通っている人もいますけど、木梨憲武みたいな芸能人は、そこをブルドーザーでなぎ倒して作品を発表しているわけですよ(笑)。だから「芸能と芸術ってやっぱり違うだろ!」って思うし、そもそも木梨憲武は本当に絵が下手だし。

――絵を描く芸能人って、ほかにもジミー大西とか片岡鶴太郎とか何人もいますけど、誰が上手いとか下手とか、真剣に考えて見たことがなかったです。

ヨシムラ 鶴ちゃんの絵は「絵を愛しているんだな」と見ていて思いましたけど、木梨憲武の絵は、僕はひとつ もいいと思わなかったですね。あと、ビートたけしも不思議なタッチの絵を描いてましたけど、あの人って教養があるから、自分の絵に価値がないことを知っている。だから映画『アキレスと亀』の中で、自分の絵を燃やしたりしているんですよね。でも、木梨憲武は自分の感性の正しさを盲信しているから、自分の絵を燃やせないと思うんですよ。

芸能人アーティストが使いがちな「感性、自由、ひらめき」といった言葉に美大生たちは辟易。人気になると「結局は絵の良さじゃなく知名度か!」とツッコミたくなるそう

――教養の違いが問題なんですか?

ヨシムラ あと、周囲が太鼓持ちばかりなんだと思いますよ。木梨憲武のニューヨークでの個展の動画みましたけど、奥さんの安田成美さんとも「あ、これカワイイ!」「そうだろ?」みたいな会話していましたから。あれも狂気と夢の王国ですよ!

――一方で美大生のほうも、『イレイザーヘッド』のようなカルト映画を見たり、名画座通いをしたりするものの、ご自身を含めて作品の内容は分かってない人が大半……とも書かれていますよね(笑)。

ヨシムラ 美大に通う4年間だけ変人みたいに振る舞って、出た途端に真人間になる人が多いんですよ。「美大生は変人が多い」っていいますけど、本当に変わった人って、ごく一握りですから。僕もニセモノの変わった人の1人だし、そもそも本当に変わっている人は美大なんか行かないですよ!

――「作品のために脱ぐ人がいる」という話も驚いたんですが、それも「変わった人になる」ための一貫なんでしょうか。

ヨシムラ でしょうね。ずっとヌードの作品を発表し続けたら変わった人ですけど、たいていは1回きりだし。美大生らしくなるためのトライ・アンド・エラーのひとつ に「脱ぐ」という挑戦があるんだと思います。美大生って、本当は普通で真っ当な人ばかりなんです。

――そうなんですか。美大に対してもっていた夢とか尊敬が、どんどん崩れていっています。

ヨシムラ そういう偏見を無くしたかったのもあるんですよ。藝大(東京藝術大学)はスゴい人が多いと聞きますが、ほぼ無試験で入れるようなクソみたいな美大もありますから。ムサビ(武蔵野美術大学)も、みうらじゅんさんの時代は40~50倍くらいの倍率があったみたいですけど、今は試験の倍率が1倍ちょいの学科もありますし。

――この本を読んだ美大生や美大出身の人から「美大のイメージを壊すな!」という反応はなかったですか?

ヨシムラ まったくないですね。あと美大のいいところも言っておくと、美大って「ものを作る」というパッションや親切心で回っている場所なので、基本的には善意の王国なんですよ。社会には「食うか食われるか」みたいな嫌な部分があるし、不親切なことも多いけど、美大生はスゴくピュア。「自分はいい作品を作ればそれでいい」みたいな幻想を信じていられる部分もある。だから社会に出た後で、現実とのギャップに苦しめられる人も多いんです。

もともと女子率の高い美大。飲み会が荒れることはなく、コールもイッキもなく、美を語り合う健全な飲み会となることが多い

――美大で過ごす4年間は、ある種、夢のような時間なんですね。

ヨシムラ ディズニーランドみたいな夢の国なんです。そこで過ごした難儀な美大出身者を温かく見守ってほしいですし、想像以上にピュアな連中だということは分かってほしいです! あと、今の世の中ってみんなが忙しいから、「人が褒めるものをいいと思う」みたいな風潮がありますけど、美大生は自分の価値観で物事を見ようとするし、審美眼があると思うんですよ。でも世の中の人はみんな、糸井重里さんが褒めたものを欲しがるじゃないですか!

――バルミューダの炊飯器とか、めっちゃ欲しくなりますね(笑)。

ヨシムラ 僕は「すべてのクリエイターは糸井重里の部下である」という持論を唱えているんです。糸井さんってTwitterでも人気の人ともすぐに仲良くなっちゃうし、新しい人を仲間にするのが凄く上手いんです。気づいたらあらゆるものに糸井印が押され、糸井さんの世界に収まってしまっている。これ、スゴいことですよ。僕もメッチャ糸井印ほしいですもん!

最近、「僕が売れないのって、僕がつまらないからだよなぁ」と23歳の頃の元カノに言ったら、「やっと気づいた?」と言われたというヨシムラ氏。写真は日常の面白い出来事を記録する『マイブック』

取材・文=古澤誠一郎