『美大生図鑑』著者が断言!『ハチクロ』の美大はヘンリー・ダーガーの作品くらい非現実
公開日:2017/5/20
美大の“あるある”をこれでもかと詰め込み、「美大生は“変わり者”を自己演出している」「『ハチクロ』で描かれる美大はフィクション」など、物議を醸しそうな意見も多く登場する『美大生図鑑 あなたの周りにもいる摩訶不思議な人たち』(飛鳥新社)。「本では毒を抑えめにした」という著者のヨシムラヒロム氏が、各方面へのディスを撒き散らしながら、美大を語ったインタビュー。今回はその前編をお届けする。
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――美大と聞くと『ハチミツとクローバー』の世界を思い浮かべる人が多いと思うんですが、この本には「『ハチクロ』で知る美大の情報は、『こち亀』を読んで『警察官ってこんな仕事なんだぁ』と思うほど間違ってる」と書かれていますね。また、メインキャラ5人のうち2人が、世界で通用する天才芸術家というのもフィクションだと。
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ヨシムラ 『ハチクロ』のはぐちゃんみたいな、学生時代から引く手あまたの天才って、数十年に1人いるかいないかってレベルですからね。羽海野チカ先生って、高校卒業後に就職したサンリオで、同期に美大出身者が多かったみたいで。その人達からキラキラした美大の生活を聞いて、「私もそういう生活をしたかった!」という思いで『ハチクロ』を描いたらしいんです。だからヘンリー・ダーガーの作品みたいなものなんですよ!
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――作者が女性の裸を見たことがなかったから、女性にチンコが描かれていた『非現実の王国で』みたいな。
※ヘンリー・ダーガー…半世紀以上もの間たった一人で書き続けた作品『非現実の王国で』が死後発見され、アウトサイダー・アートの作家として評価された人物。
ヨシムラ そう、ハチクロの美大は『非現実の王国』なんですよ! 僕は『ハチクロ』が嫌いなわけじゃないし、吉田豪さんがインタビューした話をラジオで聞いて、「羽海野チカ先生って本当に良い人なんだな」と思いましたけど、『ハチクロ』で描かれる美大は夢物語だとは伝えておきたいです。
――ほかに本のなかで反響があったのはどんな部分でしたか?
ヨシムラ 「美大は夢を売っている」という話とか、「『美大出身』と名乗ると『すごいね』と無条件で賞賛される」という話とかですね。「美大生です」「すごいね!」みたいな会話って、褒める側も心がこもってないし、コミュニケーションとしては「無」ですよ「無」! でも、何度も褒められているうちに、美大生の側は「自分は人より優れているんじゃないか」「変わった人間なんじゃないか」と思うようになってくる。それで結局は自分が痛い目に遭うんですよ!
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――美大生は「変わり者だ」と頻繁に言われるせいで、「自分も変わってたほうがいいのか」と思いがちになる……と書いていましたね。
ヨシムラ 中島信也さん(CMディレクター、武蔵野美術大学客員教授)の言葉を借りると、大半の美大生は「ない個性を叫んでいる」状態なんですよ。あと美大出身の有名人って、その中島さんとか、みうらじゅんさんとか、森本千絵さんとか沢山いますけど、その人達は数千人に1人の成功者なんですよ。でも、そういう人達が目立つから、「美大に行くと私も有名クリエイターになれる」なんて思っちゃう人がいる。みんな、「早稲田の文学部に行ったら村上春樹になれる」とは思わないのに!
――確かに。美大にまったく縁のない僕は、そういうイメージを持っちゃってました。「美大に入れるくらい絵がうまい」という時点で、無条件に尊敬しちゃうし……。
ヨシムラ でも、大半の人は入学後すぐにプライドを折られますから。才能のあるなしって、課題をいくつかやるだけで分かるし、本当にセンスある人は在学中から有名になりますから。あとプレゼン能力が優れていて、電通や博報堂に青田買いされていく人もいますけど、それも数百人に1人のレベル。あとは僕みたいな吹き溜まりの人間が大半です!
――でも漫画家やミュージシャンとして後に成功する人もいるから、「俺は大器晩成なんだ!」みたいな希望も持ち続けられるのも厄介みたいですね。
ヨシムラ それも30歳ぐらいになるとキツいですよ。僕も30歳でこの本を出せて良かったと思いますもん! もう30歳になると、アート活動を続けている同級生もほとんどいないし、そもそも美大卒業後にクリエイティブ業界に行ける人が少ない。ある種、分別がついてきちゃうんですよ。
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――あと、美大に行ってない人間からすると、ヌードデッサンの授業の話は興味津々でした。
ヨシムラ 僕はデザイン系の学科だから、そもそもヌードデッサンの経験自体がないんですけどね。経験した人から聞いても、ほんとに静かーな感じで授業が進むから、興奮もクソもないと。
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――けっこう普通なんですね。美人の女性がモデルで来たらどうしようとか、何か大変なことが起こるんじゃないかとか妄想してしまうんですが……。
ヨシムラ それはAVの見過ぎですよ!
取材・文=古澤誠一郎
後編は5月21日(日)18:00公開です!