とっつきやすくわかりやすくなれば人生も変わる! ゾンビ先生のゆる~い哲学講義
公開日:2017/5/25
哲学とは人としての生き方や考え方の本質を問う学問だ。だから、その中にはさまざまな悩みを解決してくれるヒントが隠されている。しかし、本当に悩んでいるときには、難しく回りくどい説教じみた話は聞きたくないと拒否してしまう。だから、とっつきにくくわかりにくい哲学書は敬遠され、せっかくのヒントを見逃してしまうことになる。そこで、誰にでもわかりやすく、ゆるい語り口調で人生の本質について説いてくれる『(推定3000歳の)ゾンビの哲学に救われた僕(底辺)は、クソッタレな世界をもう一度、生きることにした。』(さくら剛/ライツ社)を取り上げる。
会話形式だから楽に読める
世の中を面白くないと思いながら生きている青年・ひろと約3000年もの間生き続けている(死に続けている?)哲学ゾンビのゾンビ先生が自殺の名所で出会うところから話が始まる。結果的にひろには自殺の意思などなく、単なるゾンビ先生の勘違いだったのだが、その出会いがひろのつまらない人生を大きく変えることになる。ひろがゾンビ先生、そして途中から加わったゾンビ先生の教え子・エリ先生と繰り広げる何気ない会話の中から哲学の初歩を学んでいく。小ネタも随所にちりばめられているから、堅苦しい本は苦手という人でも楽に哲学について学ぶことができる。
哲学はAKBでありゲームの攻略本?
初めて講義を受ける際、ひろは「哲学なんて科学や数学と比べたら役に立たないような気がする」と素直な感想を述べた。だが、哲学はすべての学問の出発点だ。そのことをゾンビ先生はAKBと各メンバーの卒業になぞらえて説明した。主要メンバーが抜けても、きちんとセンターを張るメンバーが現れ、グループを存続させている。その様子を哲学から派生した学問と本質的な課題だけが残った現代の哲学に結びつけたのだ。また、哲学は、時間の限られている人生の中でできるだけ問題を楽にクリアできるように手引きするゲーム攻略本のようなものだともたとえている。ここまでわかりやすいイメージを示してくれれば、哲学も確かにとっつきやすくなる。
見た目はゆるくても中身は深い
ひろが人生を面白くないと感じている理由を、ゾンビ先生は「人生にどんな面白いことがあるかをまだ知らないし、知ろうとしていないからだ」と説いている。よい音楽を作る音楽家はよい音楽をたくさん知っているし、おいしい料理を作る料理人はおいしい料理をたくさん知っている。人生にも同じことが言えると言うのだ。「生きる楽しさを知らないまま人生をつまらないと判断してしまうのは、よい音楽やおいしい料理が世の中にあることを知らないまま音楽家や料理人を目指しているのと同じ」という言葉が深い。そんな深い内容がギャグ満載のゆるゆるな会話の中に盛り込まれているから、身構える必要がなく、その分すんなりと頭に入ってくる。
正しさを決めるのは自分
何が正しくて何が間違っているのかを決める基準が人によって違うことを説明するのにゾンビという立場が役に立っている。ゾンビ先生もゾンビ先生の弟子のエリ先生もゾンビとしての命をつなぐために人を食べる。それが正義に反するのか反しないのかという点を考えるのに、人のようで人ではない、生きているようで生きていないゾンビという存在がうまく使われている。人は他の人の立場で考えているようで、実は自分の考えでしか動いていない。この人だったらきっとこう考えるだろうと想像しているだけなのに、他の人のことを考えているつもりになっているだけなのだ。要は正しさを決めているのは自分。だから、正しいかどうかの判断は自分で自信を持ってしていい。
周りの意見ばかりを気にして生きづらさを感じているなら、ゾンビ先生の講義を受けてみるといい。五月病で人生がイヤになっている人も、ゾンビ先生のゆるい哲学講義を受ければ救われる点があるはずだ。答えが出ないものの答えを探すのが哲学。だから、哲学者によって考え方や答えの導き方が違う。相反する考え方があっても、それぞれの意見の違いに目を向ければ、人生を歩んでいくためのヒントがきっと見つかるだろう。
文=大石みずき