「自分には価値がない」と考えてしまうメカニズム―親の過保護や過干渉から解放されるには?

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公開日:2017/5/31

『「自分には価値がない」の心理学(朝日新書)』(根本橘夫/朝日新聞出版)

 子育てや教育に熱心な保護者の中には、先回りをして子どもにあれこれとやってあげたくなる人もいるだろう。しかし、度が過ぎて過保護や過干渉になると、子どものためにならないようだ。

 日本人は世界の中で「自分に自信を持たない」民族だといわれる。その中でもさらに無価値感や自信のなさに悩む人たちが一定数いる。こういった人たちは、親や周囲の大人に「お前はダメだ」と否定され続けてきたと思われがちだが、そうではないケースがあるらしい『「自分には価値がない」の心理学(朝日新書)』(根本橘夫/朝日新聞出版)によると、過保護とも思えるほど親に大事にされてきたのに、無価値感に苛まれる人がいるというのだ。

 過保護と過干渉はセットで語られることが多く、両者が子どもに与える影響には共通する部分も多いが、異なる部分もある。

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典型化して言えば、過保護は「お前は無力だ」という暗黙のメッセージを送り、過干渉は「お前のままでは駄目だ」というメッセージを送る。このために、過保護は子どもを無力化することで無価値感をもたらし、過干渉は子どもの自我を奪い取ることで無価値感をもたらす。

 親からの無言のメッセージを受け、子どもは自分を信頼できなくなる。また、「お腹すいたでしょ、これ食べなさい」「寒いでしょ、もう一枚着なさい」「プレゼントもらって嬉しいでしょ、お礼を言いなさい」などと親が先回りして欲求を満たし、子どもの感情を言語化することで、子どもは自分の感情や好み、身体感覚などが希薄化していく。そのような子どもは、やがて「自分は本当は何が好きなのか」「何をしたいのか」がわからない大人に育つ。子どもを導いているという錯覚が親に高揚感を与えるのもやっかいで、過保護や過干渉を中毒化させることとなる。

 人は過去からのとらわれによって反射的に感情が喚起され、無意識のうちに行動が規制される。具体的には、過去の苦い経験によって「子どものように楽しんではいけない」「重要な人物になってはいけない」「健康であってはいけない」など「○○であってはいけない」という禁止令によって自らの心と行動を束縛する。禁止令に触れると、ストレスを感じたり、不安になったり、調子を崩したりする。

 この禁止令とは逆に「強くあれ」「完全であれ」「努力家であれ」といった「○○であれ」「○○せよ」という形で人を束縛するものを拮抗(きっこう)禁止令という。無価値感の強い人は、禁止令より拮抗禁止令に強くとらわれていることが少なくないという。

 つまり、作業をやり終えたのに不全感が湧いてきたら、「今“完全であれ”の禁止令にとらわれているな」と意識し、気持ちを切り替えようと努めることで、自分を不当に貶めることから脱却できるという。

 こうしたことを日々繰り返すことで、無価値感や自信のなさの悩みから解放される、と本書は説く。

文=ルートつつみ