いきもののあまりに緻密で複雑な「デザイン」に思わず驚嘆! ロングセラーを生んだ生物学者の『ウニはすごい バッタもすごい』が人気!
更新日:2017/6/12
宙を飛んでいるハチの羽はものすごい速さで振動しているように見えるけれど、どうやって動かしているのだろう? ヒトデはどうして星形をしているのか。ナマコには脳も心臓もないって、いったいどういうことなのか――ほとんどの人はそんなことを真剣に考えたことはないだろう。
『ウニはすごい バッタもすごい』(本川達雄/中央公論新社)は、そんな恐らく多くの人が疑問に感じたこともない生物の多種多様な生態や形態が「なぜそうなっているのか」ということをひたすら考察していく一冊だ。
現在、地球にはおよそ130万種の動物がいて、体のつくりの似たもの同士をまとめた大まかなグループに分けると、34に分類されるという。この単位を“門”といい、本書では34門の中から刺胞動物門、節足動物門、軟体動物門、棘皮動物門、脊索動物門の5つを取り上げている。
刺胞動物門とは「刺胞をもつ動物」のことで、“刺胞”というのは小さな銛(もり)のような飛び道具。サンゴはこれを発射して動物プランクトンを捕まえている。この刺胞は一回きりの使い捨てなので無駄撃ちしないようにできていて、おまけに発射するスピードはなんと時速60キロメートル。細胞の動きとしては生物界最速の反応なんだとか。そんな刺胞をもったサンゴという生物は、いかにして“サンゴ礁”という多様な生物に満ちあふれ、地図にも載るような巨大な共生の世界を作り上げるのか。
生物界でダントツの繁栄と発展をしたのは節足動物門の昆虫。全動物の中でもっとも数が多く、実に7割以上が昆虫だという。昆虫の外骨格とその素材となる“クチクラ”という物質の特性から、この繁栄の秘密を解き明かす。
貝の仲間は軟体動物門。貝の殻はサザエを見ればわかりやすいが、立体的ならせん状になっている。アサリやハマグリはそうは見えないが、実は巻き方が弱いだけで殻はらせん状になっているんだそう。では、どうして貝の殻はらせん状になっているのか、そんな殻がくっついて離れない二枚貝の“力”がどのように効率よく作り出されているのか、知っている人はどれだけいるだろう。
心臓も脳ももたない棘皮動物のヒトデやナマコ、大きく分ければ人類と同じ脊索動物であるというホヤ、そして私たち人間を含めた四肢動物の脊椎動物へと著者の考察は続いていく。
それぞれ想像もできないような長い時間をかけた進化と生存戦略で組み上げられた、あまりに多様で緻密で複雑な生物の構造には驚かずにいられない。いったいそんなことを知って何の役に立つのかと問われたら、とくに何の役にも立たないとしかいいようがないのだが、本書にこれでもかというほど詰まっている「すごい、知らなかった!」という体験の連続は、まさに読書の醍醐味だ。驚愕と神秘に満ちた生物のデザインに感嘆しつつ、生物に対する視点が更新され、それは新しい世界観の獲得にまでつながっていくだろう。
著者・本川達雄氏は25年前に刊行したロング&ベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』で知られる生物学者。講義の後は学生たちの前で自作の歌を披露することで“歌う生物学者”の異名をもち、本書でも各章末には取り上げた動物を褒め称える歌の歌詞が、そして巻末には楽譜までも掲載されている。著者の生物に対する愛の深さ、そのユニークなキャラクターにも興味を惹かれずにはいられない。
文=橋富政彦
ロングセラー&ベストセラーとなった『ゾウの時間 ネズミの時間』の歌(本川達雄さん動画コメント付)は、本の動画投稿コミュニティサイト「本TUBE」にて公開中!