「あれ、どうなってる?」… 日本ならではの「察し」コミュニケーションの弊害
公開日:2017/6/13
ADHDの方が「与えられる情報が少ないと混乱してしまう」ということを発信し、共感コメントが集まり話題になっています。
「あれ、どうなってる?」といった省略した伝え方をする人は多いですよね。筆者もそんな伝え方に弱いタイプ。「主語はなに?」「何の件?」などと聞き返せる社内はともかく、取引先で会話が見えなくなってしまい周りを驚かせてしまうこともあります。それなのに、自分が伝えるときには「回避できないかな」と唐突に言ってしまい「何をですか?」と聞かれることも。
私たちはなぜ情報を“省略して伝える”のでしょうか。
■難易度の高い「察し」のコミュニケーションスタイルとは
コミュニケーションを研究している筆者が一番に思いついた理由は、日本独自のハイコンテクスト文化、いわゆる「察し」のコミュニケーションスタイルです。説明するより早いと思いますので、いくつか例を挙げてみます。
例1)
「今日一杯どう?」…… 今日飲みに行きませんか
「月末はちょっと」…… 月末なので(忙しいorお金がない)行けません
例2)
「じゃあ勝手にしろ!」…… あなたの主張は許容できません
「……(怒っているからやめておこう)」
例3)
「明日締切だから集中したいんだよね」…… 明日締切なので集中する必要があります。テレビを消してもらえますか
「ごめん、テレビ消すね」
日本人なら不思議に感じないこれらの会話も、比較的ストレートでわかりやすい表現を使う傾向がある国(スイス、ドイツ、アメリカなど)の人が聞いたら困惑するかも知れません。
意思疎通ができてくると、コミュニケーションに割く時間を減らすために、簡易的なやりとりをするようになるのはどの国でもある現象だと思います。ですが日本は諸外国に比べて、実際に交わすメッセージよりも「場面」「状況」「文脈」といったことを重視する傾向が強いと言われています。おのずと省略される要素も増えます。ここにハッキリさせないことを良しとする「曖昧文化」が重なるわけですから、情報を受け取る側には高い読解能力が必要になります。
曖昧文化の例)
「検討します」…… 本当に検討する場合にも、フェイドアウトスタイルで断りたい場合にも使われる
これら日本流のコミュニケーションスタイルは、複数の理解ができるので戸惑う人がいるのも無理はありません。一瞬でピンとくる人は、情報の受け手としての能力が高い人。これは、必ずしも仕事がデキる人とイコールではないのですが。
伝えたいことをスグに理解してもらえるのは気持ちがいいものです。相手のことを高く評価したくなる気持ちもよくわかります。逆に、伝えたいことをわかってもらえないケースではストレスが溜まります。こういうときは要注意。自分の伝え方の悪さを反省するよりも、すぐにピンとこない人を「デキない人」と決めつけがちな状況だからです。
■コミュニケーションは「急がばまわれ」
情報を省略して伝えてしまう人がいる一方で、誰にでもわかる具体的な説明ができる人たちもいます。
例えば、色、大きさ、タイミング、なんのためになど、情報を付け加えるだけでわかりやすくなるケースは少なくありません。伝える側はエネルギーを使うと思いますが、情報の受け手が戸惑うことも、誤解することも減ります。私たち日本人は受け手側に負担の大きいコミュニケーションをとりがちだということを踏まえ、丁寧な伝え方を心がけたいものです。
自分がよく知っていることを、それを知らない人に伝える。これは思っているよりも大変です。正確に伝えるためには想像力と思いやり、そしてほんの少しの忍耐も必要です。
相手から期待する反応をとるためには、正しく情報を伝えることが大切。欲しい結果だけでなく、いい人間関係を続けるためにも、コミュニケーションは「急がばまわれ」と覚えておくといいでしょう。
文=citrus All About 話し方・伝え方ガイド 藤田尚弓