日本人が愛してやまない国民食「カレーライス」は海外にどう進出した? 水野仁輔のカレーライス進化論!
公開日:2017/6/12
スパイシーな香り、野菜や肉が入った茶色いなめらかなルウ、きらめく銀シャリご飯――詳細は違うかもしれないが、多くの日本人が抱く「カレーライス」の姿だろう。
カレーはインドで生まれ、イギリスを経由して150年ほど前に日本にやってきたが、日本では「カレーライス」として独自の進化を遂げた食べ物になった。その現状は、歌舞伎などの伝統芸能やアニメのようなサブカルチャーに引けを取らないレベルだが、スゴさに気づいていない日本人は多い、と著者は言う。
『カレーライス進化論』(イースト・プレス)の著者・水野仁輔さんは、AIR SPICE代表。スパイス&カレーの専門家として、日本全国各地のイベントに出張して、ライブクッキングや「カレーの学校」の講師をするなど、幅広く活躍している。この17年に40冊以上のカレーに関する本を出版してきた。
本書は、海外における「カレーライス」の現状、日本におけるカレーの歴史、こだわってきた作り方のポイント、おいしさの構造分析、未来につながるアイディアまで、「カレーライス」の魅力を語りつくした一冊となっている。
たとえば、「カレーライス」は海外にどう進出しているのか? 2つの外食チェーンと1つの食品メーカーの動向が示される。企業の意外な姿勢にも驚く。
外食チェーン「ゴーゴーカレー」は、千切りキャベツを添えて提供するカツカレーが主力商品だ。ゴリラのロゴで知られている。2007年にアメリカに進出し、飲食ビジネスが難しいニューヨークで成功した先駆者だ。いずれも店内は連日盛況。だが、はじめのうちは認知度を上げるため、タイムズスクエアで従業員がゴリラの着ぐるみを着て、キャンペーンをしたという。
日本と同じクオリティにこだわり、食材も必要なものは日本から調達。お米やトンカツの肉は選び直した。価格設定はマクドナルドのビッグマックセットを基準にし、低所得者層はターゲットにしていない。客の好みに合わせたメニュー開発をし、注文のしかた、決済法も工夫している。まずは一気に店舗数を増やすのが難しいアメリカで「1000軒」を目指し、それを足がかりにアジア・ヨーロッパまで席巻することが目標。2020年の東京オリンピックに向けて、医学博士と共同で開発しているアスリート向けの必須アミノ酸配合カレーの提供を考えている。驚きだったのは、筋肉を作るカレーを開発して介護業界の参入も検討していること。
「カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)」は、世界最大のカレー外食チェーン。イスラム圏への出店のため、ハラール対応カレーソースの開発をしており、東京オリンピックに向けて、ジャパニーズカレーでハラール認証の専門店出店を考えている。そしてなんと、海外進出の最終目的地をカレー発祥の地・インドに設定している。
「ハウス食品」は、カレールウ「百夢多(バーモント)カレー」を中国で大々的に売りこんでいる。試食イベント、スーパーでの売り場陳列コンテストやSNSメディアを利用した情報拡散にも余念がない。東南アジア地域の新興国は、所得が増えてくると核家族化して、家庭で料理を作る人たちが急増するはず。それをすでにターゲットにしている。
本書にはさらに詳細な記述がある。著者の水野さんが取材を重ねていただけに、各社の経営中枢から仕入れた新鮮な情報も。だが、新書版で1センチ程度の厚み。200ページ余にギュッと情報が入っていてオトク感が味わえる。
「カレーライス」の現状を知り、魅力を堪能していたら、「あのスパイシーな香りが呼んでいる!」との錯覚が……。梅雨時の雨空でも、憂鬱な気分にまさって、不思議と心が浮き立つのを感じる。自作派も食べ歩き派も、思わず「カレーライス」が食べたくなる。
文=久松有紗子