なぜ臨終に立ち会うべきなのか? 50年間「臨終」に立ち会ってきた医師が語る
公開日:2017/6/15
女優の川島なお美さんがガンで亡くなって、1年半が過ぎた。有名なパティシエである夫の鎧塚俊彦さんのあるインタビュー記事によれば、彼女は最後の瞬間に夫の手をグッと握って身をおこし、夫に向けて目を見開き、ハァと息を吐いたのだという。
このような話を聞くと、日頃は目をそむけがちな自分の「死に際」や「看取り」について否応なく考えさせられるものだ。生きている限り避けられない「死」に向き合うのは怖いが、そんなときに手にとりたいのが『臨終の七不思議』(志賀貢/三五館)である。
現役医師である著者は、「臨終は決して恐怖に満ちたものではなく、人間としての知恵を働かせれば、送るほうも送られるほうも心安らかに受け入れられる“自然の摂理”にしたがった現象であることが理解できるはず」という。
本書には、そんな著者が伝えたい「知れば怖くなくなる臨終の話」が、7つの章に記されている。
例えば、「『臨終を告げる前触れ』の不思議」の章の「なぜ人はひとりぼっちで死んではいけないのか」。入院中に容態が悪化し死期を悟った患者さんは、例外なく、家族や友人、世話になった人に会いたい、と訴えるという。これは、人間(生物)の三大本能「食欲」「性欲」「集団欲」のうち、群れをつくって生きていく本能である「集団欲」で人恋しくなるから、だそうだ。そういうことならば、「会いたい」といわれたときには間にあうように駆けつけてそばにいてあげたいし、そうしてよいことにも気づかされる。
また、「眠り」と「死」の狭間の脳現象について、「『臨終間際の意識』の不思議」の章では、「麻酔中にも意識が消失しない『覚醒麻酔』という脳の謎」についてふれている。全身麻酔中でも手術中のまわりの声や器具の音が聞こえる「覚醒麻酔」の状態の患者さんが約0.2%いるといわれ、脳全体の機能が完全に麻酔されず聴覚中枢など一部がそのまま働いていると推測されるのだ。
そしてその「脳の謎」は、「看取る側の人たちが枕元で絶対に言ってはいけないこと」につながる。病状が悪化し意識のない50代男性患者の枕元で、献身的に見えて実は財産を狙っていた若い婚約者とその恋人がした話が本人に聞こえていて、奇跡的な回復後にそれを担当医である著者に伝えたのだ。このとき「覚醒麻酔」と同じ現象が起こっていた、と著者は分析し、意識のない人の枕元で相続や悪口などを決して言ってはいけないこと、逆に、励ましや感謝を言えば届くこと、を伝えている。たとえ臨終間際でもまわり人の声は聞こえていて、それは臨死状態から生き返った人の証言にもある、というからおどろきだ。
核家族化している現代は「臨終」に立ち会うのは稀なことになり、自分が死ぬのは1回限りであらかじめ体験することはできない。だからこそ本書は、「なぜ臨終に立ち会うべきなのか?」を知り、知らないが故の「怖れ」から抜け出し、「幸せな臨終の形とは?」を考えていくのに必要な1冊、なのである。
文=秋月香音