部屋を片付けると、少しずつ自分のうまくいっていないところがうまくいくようになる。『自分を好きになろう』作家:岡映里×漫画家:瀧波ユカリ対談【前編】
更新日:2017/7/18
たった10秒の片付けから始まった、今までにないうつ回復エッセイ『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』(KADOKAWA)。著者の岡映里さんが、うつ症状と向き合い「ごきげん」な自分を取り戻すまでの1年半を書き下ろした実録手記で、何もかもうまくいかなかったところから、行動を変えて心も変わっていく様子が描かれている。内容に合わせた漫画を瀧波ユカリさんが描き下ろしたことでも話題だ。今回は、「もともと自分が好きではなかった」というお二人が、どうやって変われたのか、そして本作がどうやって生まれたのか語っていただいた。
■うつ状態から回復したきっかけは「片付け」だった
岡映里さん(以下、岡) 『自分を好きになろう』の第1章でも書いているんですが、私がうつ状態から回復できたきっかけは『片付け』からでした。その時は、ゴミ屋敷の中で片付けの本を5、6冊以上ずっと読んで、やっと片付けられたんです。
瀧波ユカリさん(以下、瀧波) 私も、すごく悪い状態でもないけど、なんだかうまくいかない、片付けもうまくいかないなって時に、片付けをしてそこそこ大丈夫なところに上がったっていう感じです。当時は机の上に常に何かが積みあがっていて、仕事がうまくできない、みたいな状態でした。
岡 うちの親もそうだったんですよ。ダイニングテーブルに新聞とか物が絶対色々乗っていて、キレイな状態がなくて。だから自分の机もそうだったんですけど、今は2年前の自分が信じられないくらい、全部片付けて。そしたら仕事がやりやすいですね。本も読みやすくなったし。
瀧波 片付けると、少しずつ今まで自分のうまくいっていなかったところがうまくいくようになるんですよね。でもなんかこう、また戻るというか、常に続かない。
■リバウンド期を乗り越えるために、自己否定をやめる
岡 そうですよね。絶対、リバウンド期が来るんですよ。片付けることをずっと続けられるのは、何か“すごく良いこと”があるからだと思うんです。片付いてきれいになるのは誰でも嬉しいと思うんですけど、もっと何か根本的に変わると、片付けが続くような気がします。
瀧波 私は、その続くためのスイッチが入らなくて困ってたんですね。で、最終的に岡さんに斎藤一人さんの本を教えてもらって。それで、あぁ、ここが足りてなかったんだなっていうのがわかったんですよ。それが自己否定をやめるということでした。
岡 なるほど。
瀧波 そういう芯の部分がないまま、自分をうまく立てようとしていて。大人になって色々知識がついてくるから、なんとなく立つんですけど、でも土台がないから、やっぱりまた倒れて。また別の本を読んで、また立てては倒れてを繰り返していました。最終的に、土台ができたら、“あ、そっかこれだよね。やっぱ必要なのは”って思えたんです。
■だんだん歳をとって、このままじゃだめだと気付いた
岡 瀧波さんのデビュー作の『臨死!! 江古田ちゃん』は、心の扱い方とか自己否定的なことをやめましょうといった今回の本の内容や作風とは、かなり離れていたと思うんですよ。江古田ちゃんが、彼氏じゃないけど食っちゃった男の人の家に行ったら自己啓発本がバーって並んでて、うわぁってなるシーンが出てくるじゃないですか。そこから今回の話って、かなり変化しているのかなと思うんですけど、どうですか。
瀧波 そうですね。以前から自分はこのままで良いっていう気持ちはありました。性格とか考え方とか。それが漫画にも出てたと思うんです。このままでも何とかやっていけるから大丈夫という。でもそれは多分、若くて勢いがあるからなんです。描き始めた頃から10年以上経って、だんだん歳もとって、家庭も持ったりして。このままじゃ、多分なんか無理だなって気がついたんです。
■仕事をしながら笑顔の練習
瀧波 年末に夫と子供が帰省してひとりでいる時に、これは一日中笑顔の研究をするのに絶好の機会ではないかと思って。ずっと原稿を描いてたんですけど、誰の目もはばかることなくずっと笑顔でいてみました。
岡 私も同じことをやったことがあります。仕事している時、ずっと笑顔でいると、デフォルトが笑顔になれますよね。
瀧波 めちゃくちゃ気分いいですよね? 今までどの面下げて生きてきたんだ……って思ったりして。
岡 じゃあ、掃除とか片付けとか笑顔とか、私が原稿に書いたことを、瀧波さんはだいたいやってたんですね。
瀧波 これは多分、そういう流れなんだと思います。自然にみんな、そうなるんだなって。そういうことを書いている本はいっぱいあるんだけど、自然に入ってくる本と、入っても抜けちゃう本がある。
岡 それって、何が違いなんでしょう。
■これをやらなきゃダメっていうのはない
瀧波 なんか脅しが……脅しが入ってない。斎藤一人さんの本も脅しが何も入ってないんですよね。
岡 確かに。これをやらなきゃダメっていうのはないですよね。できなくてもいいよって。やってみて、できなかったら、まだタイミングが来てないからだね。そういう感じですもんね。自己啓発の本って、同じスローガンで全く違うことが言えると思うんです。ただやっぱり『自己否定をやめて自分を好きになって、自分の本心に気がついて、自分の本心に従いましょう』っていうのは、ほとんど真理だと思うんですよ。
瀧波 考え方だけを書く本もあれば、自分の人生でこういうことを経てきたと書く本もありますよね。岡さんの本は後者だと思うんですけど、そっちのほうが読む人を選ぶことにはなりますよね。
岡 確かにそうなると思います。ただ実は、前の本(『境界の町で』(リトルモア))も自分のことしか書いていないので、そういう意味では繫っているのかなと思います。私、自分の人生を書いてお金にすることしかできないような気がするんです。瀧波さんも、お子さんが生まれた時には『はるまき日記』(文藝春秋)を書かれたり、今もお母さんのことを描かれた連載「ありがとうって言えたなら」(CREA WEB)を執筆中ですし、やっぱり人生で起こってくることが一番問題意識っていうか、テーマになるのかなって。
瀧波 「ありがとうって言えたなら」は、まだ母が生きていた時に病気だとわかって、例えば親が癌だってわかったらどうするのか……みたいな本を探したけどなかったんです。どんなジャンルでもいいんだけど、あれば良いなって思って。
岡 なるほど。私もそうだったんですが、お母さんとのこと……なんだかうまくいかないとか、意味わからないことされたっていう関係になることがあるじゃないですか。それって、それっきりにしていいのかなって思ってて。どこかで納得、妥協じゃないけど、『ありがとう』っていうところに着地させないと、そのうちまた調子悪くなるんじゃないかなって感じがすごくしていて。
瀧波 うん、うん。
岡 やっぱり子供ってお母さんが大好きじゃないですか。でも大好きだったんだけど思う通りにならないから、やっぱり無理でした、縁を切ります……ってなると、大好きだった子供の頃の自分の愛情が全然回収できない気がするんですよね。それは親に求めても愛情を返してもらえなかったという記憶がそうさせているなら、自分で自分を愛するしか無いし、その頃は親を確かに愛していたんだって認めるしか先に進めないというか……。瀧波さんのタイトルの『ありがとうって言えたなら』は、そこの紆余曲折から、好きだったっていう感情に戻っていくプロセスを描こうとしているんだと思うんです。自分がどこから出発してるか。最初に好きっていうのがあるなら、そこに戻れたらいいなって。たとえそれがうまくいかなくても。……って私は思ってます。最近やっと親のこととかを、振り返ったりできるようになったんで。
※後編に続く