『毎度!浦安鉄筋家族』の主人公・大沢木小鉄の知られざる一面

マンガ

更新日:2017/7/1

『毎度! 浦安鉄筋家族』(浜岡賢次/秋田書店)

 漫画好きの人でなくとも、名前くらいは聞いたことがあるだろう『浦安鉄筋家族』という作品。少年チャンピオンで連載が始まったのは1993年のこと。それから2度のタイトルチェンジを経て現在まで続く、長期連載漫画だ。

 主人公の大沢木小鉄と、その仲間たちが繰り広げるドタバタコメディーで、千葉県浦安市を舞台に大体暴れている。担任教師の春巻をはじめ、個性的すぎる脇役キャラクターも多く、彼らが活躍する回の印象も強い。

 そして浦鉄といえば、思い出すのが派手な暴力シーンだろう。男女問わず、ほとんどのキャラクターが打撲、骨折、流血を経験している。また、下ネタも多く、特にウンコを扱った回はかなりの数になる。

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 浦鉄を語るときは、こうしたギャグに目が行きがちだが、今回は新たな視点を紹介したいと思う。主人公・小鉄の溢れんばかりの魅力だ。

 第一シリーズである「無印」の浦鉄では、犯罪スレスレの問題行動ばかりを起こす困った子どもとして描かれていた小鉄だったが、『元祖!』以降は、思いやりある行動が増えるようになる。近年は「小鉄って、すごくいい子じゃない……?」と声を掛けたくなることもしばしばある。

 というわけで、連載中の『毎度!浦安鉄筋家族』と、前シリーズの『元祖!浦安鉄筋家族』から、小鉄の知られざる魅力を紹介しようと思う。まずは、『毎度!浦安鉄筋家族』から。

■21巻より、318キンポ★エリック物語

【友達の小さな変化に気づく洞察力!】

 友達のノブと夏休みの話をしながら登校する小鉄。物語冒頭の何気ない一コマだが、下駄箱まで来たところで、ふとノブに「先行ってていいよ」と告げて昇降口まで引き返す。するとそこには、一人うなだれて座り込んでいるクラスメイト、鈴ちゃんの姿が。「どした? 鈴ちゃん」と声をかける小鉄……。

 登校中の生徒がいっぱいいたにもかかわらず、 落ち込む友達を瞬時に発見するこの優しさ。これを何気なく描いてしまう作者のテクニックも憎い!

■19巻より、280キンポ★浦安スクリーム

【「できなくてもいい」と言ってあげられる優しさ!】

 ある朝、異常に早起きした小鉄が学校に行く途中で見つけたのは、一人公園に佇む鈴ちゃん。みんなには内緒で早起きして逆上がりの特訓をしているという鈴ちゃんに小鉄がかけたのは「別にできなくてもいいじゃん」という言葉。

 普通は「頑張れ」と言ってしまいそうなところを、あえて「できなくてもいい」と、そのままの友達の姿を認めてあげているのだ。しかも、それでも諦めない鈴ちゃんを見て、しっかり練習に付き合ってあげる小鉄はえらい。

 続いて、『元祖!浦安鉄筋家族』から。

■27巻より、395固め★ルンルンラズー

【大人に対するアドバイスが哲学的!】

 会社をリストラされた高山勝利(ヴィクトリー)。公園で時間を潰しているうちに、次第に小鉄たちと打ち解けていく。大人の苦労を子ども たちに打ち明けたヴィクトリーに対し、小鉄は「大人やめちゃえよ」とアドバイスをする。この言葉に思わずハッとした人も多いのではないだろうか。小学生の小鉄だからこそ言える、大人へのメッセージである。ちなみに、その言葉に従ったヴィクトリーは、童心に返るビジネスを立ち上げて成功する。

■27巻より、403固め★アマイモリ

【突然の理不尽な攻撃も許す心の広さ!】

 クラスメイトの雨森れいんは、自他ともに認める雨女。ランドセルの中は、常に雨水でいっぱい。そんなれいんが頭を下げた拍子に、小鉄はランドセル内の雨水を顔面に受ける。謝るれいんに対し、小鉄は「シャワーみたいで気持ちいい」と笑顔を向けるのだ。

 水をぶっかけられた相手に対し、こんな優しい言葉をかけることができるだろうか? いやできない。こんな懐の深い人間になりたいものだ。

■28巻より、419固め★痔遠藤

【頑張っている友達に対する俊敏な行動力!】

 クラス一、太っている友達のフグオは、運動能力が極めて低い。そんなフグオだが、ある日の体育で、一生懸命逆上がりにチャレンジする。その姿を見て駆け寄ったのはもちろん小鉄。寝っ転がって鼻をほじって見ていた小鉄だが、頑張るフグオのために、率先して手を貸すのだ。

 あるときは、無法者、またあるときは、友達思いの優しい小学生。小鉄の魅力溢れるエピソードは、まだまだある。最新刊21巻は、6月8日に発売したばかり。ギャグを楽しみつつ、小鉄の隠れた魅力にも注目して読んでみてはどうだろうか。

文=中村未来/清談社