自己嫌悪ループから脱出する、朝の習慣、言葉の効果。『自分を好きになろう』作家:岡映里×漫画家:瀧波ユカリ対談【後編】
公開日:2017/7/5
たった10秒の片付けから始まった、今までにないうつ回復エッセイ『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』(KADOKAWA)。著者の岡映里さんが、うつ症状と向き合い「ごきげん」な自分を取り戻すまでの1年半を書き下ろした実録手記で、何もかもうまくいかなかったところから、行動を変えて心も変わっていく様子が描かれている。内容に合わせた漫画を瀧波ユカリさんが描き下ろしたことでも話題だ。「もともと自分が好きではなかった」というお二人が、どうやって変われたのか、そして本作がどうやって生まれたのか語っていただいた。後編をお届けする。
■同じタイミングで同じことを経験していた
岡映里さん(以下、岡) 今回、漫画をすごく本に合うタッチにしていただいて、本当に原稿をわかってもらえて嬉しかったんですけど、瀧波さんのそういう“わかり能力”は何か秘訣があるんですか?
瀧波ユカリさん(以下、瀧波) なんでしょうね……。あまり今回みたいな仕事ってないんですけど、やっぱり自分も、同じ流れで同じようなことを経験したからですかね。
岡 そうですよね、5年くらいずれていたら、忘れちゃってるかもしれないですもんね。最初結構“踏み込む”じゃないですか。片付けるところ。片付けるまでが、相当ペダルが重い感じだったのですが、今ではそこの部分を忘れてしまってる部分が私もあるくらいですから。ちょうどタイミング的には良かったんでしょうね。
瀧波 そう。知ってるこれ! みたいな感じ。
■朝のちょっとした行動で1日が変わる
岡 ちょっと前にメッセンジャーでお話した時に『私も自己啓発の本を書こうと考えることがあるんですよ』と、おっしゃってたじゃないですか。どういうテーマだったんですか?。
瀧波 色んな本を読んで、「こうすると自分は1日気分がいいな」みたいなことを、自分で考えて実践してたんです。例えばこれは寝ながらできるんですけど、朝目が覚めた時に、足のつま先を体側に引き付けて、ふくらはぎを伸ばす。
岡 あぁ、ふくらはぎを。
瀧波 そう。で、伸びをする。両足で伸びをしても伸びないんで、片方ずつ伸ばして、骨盤を左右に振って。そうすると下半身が目覚めるので、起きたくなるんですよね。右足を下げると右の骨盤が下がる。次は左足……というように骨盤ごと動かすような感じで。
岡 それ大事だと思います。下半身を動かすって、考えたことなかったなあ。やってみよう。私は、脳内テンションを上げると起きれるんだということが最近わかりました。朝起きると、すごい自己嫌悪してるんですよ。
瀧波 うんうん。まだ私もそのクセがありますね。
岡 ありますよね。それを、すぐ打ち消すようにしてます。で、朝掃除とかもするようになって、ちょっと早起きするようになったんですけど、そうすると一日流れが良くなりますよね。
瀧波 そういう細かいコツがいっぱいありますよね。それで何とか1日楽しく回していくことができるんですけど、でもやっぱり土台が必要なんですよね。
岡 ダイエットとかもそうですよね。痩せるための手法はやまほどあって、本もそれこそダイエットの本だけで書店が開けるほどあるんじゃないかな。でも、根本的なところで太る理由って多分1個しかない。つまり必要以上に食べちゃうってことですよね。自己啓発的なことも、ジャンルはたくさんありますよね。「もうお金に困らない」とか「好きな人を引き寄せる」とか。でも、なぜそういう自己啓発本が読みたくなるかって言うと結局、理由って一つしかないと思うんですよ。それは幸せになりたいってことだと思うんです。じゃあ、幸せって何かって突き詰めて考えていったら、お金や恋人が得られなくても幸せを感じることができたら究極の幸せをつかめたことになると思ったんです。それには色んな方法があるけど、結局自分を好きになるしかない。そのためにみんな色んなことをしているんだなって思います。私、和田裕美さんも好きなんですけど。和田さんは15歳の子供向けに、やっぱり自分を好きになろうってことを書いてらっしゃいます。あと、必ず悪い事は起こるので、絶対それを良い事に変えていかないとだめだと。悪いままだと自殺したくなっちゃったりするけど、実はそのあとに良い事があるんだ、と信じることができたら。そうすると悪い事が良いことを経験するまでのプロセスになるじゃないですか。だから良く考えるクセをつけましょうって。
瀧波 子供の時に、そういうことを教えてもらいたかったですよね。
岡 ね。学校とかで習いたかったですよね。
瀧波 まず、先生が自分を好きじゃなさそうですからね。
■「変わること」は悪いことではない
岡 前編で、片付けてもリバウンドしてもとに戻っちゃう話をしましたが、自己否定のクセに気がついて土台を整えて、でも以前に戻ってしまう理由って、昔の自分がすごく寂しがってるからだと思うんですよ。後ろ向きでネガティブだった“裏”の自分がいて、前は裏側ばっかり見ていてそこで友達も作ってたのが、いきなり逆の“表”のほうに興味を持って、こっちはこっちで幸せになれるんだってわかった時に、今までの裏の人たちと過去の自分が『置いてかないで』みたいに言ってる気がして。だから片付けてもまた元に戻っちゃうのかなって思ったんです。ツイッターとか遡ると、過去の自分が本当に可視化されるなーと思って。人間って変わりますよね、考え方とか。
瀧波 変わりますね。うん。
岡 友達も変わっちゃうし。
瀧波 私はあまり変わることにためらいがないんですが、そんなに簡単に変われないっていう人もいるじゃないですか。でも変わりたい……。そういう人って、どうしたらいいのかな。私に相談してくるってことは、なにか変わりたいんだろうなって思うんですけど。そういえば、この前ふと『ask』を1日だけやろうと思って、受け付けたんです。子育てとかの質問が来たんですけど、最後に来た質問がめちゃくちゃ重くて。なんか、万引きをしてしまうっていう……。35歳で子供はいないけど結婚していて。で、若い時からずーっと万引きをしていて、17歳ぐらいから精神科にも通っていて。万引きして捕まったら未成年の時は親が迎えに来る。今やったらもう夫が迎えに来るから、絶対離婚になっちゃう。でもやめられない。助けてくださいって書いてあって。
岡 ええ。
瀧波 最初は答えられる自信がないって思ったんです。精神科に行って、多分治療もしてるから。専門的じゃないところで言おうと思って、盗まないことに焦点を当てようと考えたんです。スーパーとかで盗みたくなった時に、まずこう手を開いて、『幸せ、幸せ、幸せ……』って10回言いながら1本ずつ指を全部閉じて、全部閉じたら、『明日も幸せ、明日も幸せ……』って全部また10回言いながら指を開いてみたら?って返したんです。
■言葉や運動、まずやってみる。意味はあとからわかる
岡 ああ、それはすごくいいと思います。
瀧波 効きますかね? やってほしいなぁ。
岡 踏み込んで答えましたよね、勇気あるなぁ。私も同じようなことを自分に言い聞かせていることがあって、私の場合の言い方は、『私は私を許します』。あと、『私は大好きです』でした。『大好きです』が言えない人がすごく多いんですよ。でも『幸せ、幸せ』だったらもう少し強制力が少ないし、“大好き教”みたいにならないから、そっちのほうが言いやすいかもしれない。
瀧波 なんかこう、幸せだけだと足りないなと思って、「明日も幸せ」を付け加えたんですけど。
岡 言葉からだなって私も思います。意味はあとでわかると思う。でもそれが、言えないとか、言いたくないとか、気持ち悪いとかになると……。
瀧波 なすすべないですよね。
岡 私は筋トレのTestosteroneさんの本を教えてくれた友達にも、すごく感謝してます。
瀧波 そういう運動とか言葉とかを、多分すごくバカにしてたし、ないがしろにしてたんですけど、やっぱりそういうことに頼る歳になったなと思います。若い時でも、気付いていたら、それに救われてたと思うんですけど。まぁ、なくてもなんとか馬力でやってこれて……。
岡 そうですよね。私もバカにしてたもんな。絶対こんなところに寄ってこないだろうなとか思ってたし。
瀧波 何かをバカにするって、本当に良いことひとつもないですね。
岡 ないですね、本当に。ある意味ブーメランみたいな。でもブーメラン来て、今は良かったなって思います。
瀧波 うふふふふ。
岡 今日はありがとうございました。
◎部屋を片付けると、少しずつ自分のうまくいっていないところがうまくいくようになる。『自分を好きになろう』作家:岡映里×漫画家:瀧波ユカリ対談【前編】
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岡映里(おか・えり)
作家。1977年、埼玉県三郷市生まれ。ホテル宴会場の皿洗い、クラブ店員、パソコンショップ店員、歯科助手、家庭教師などの職を転々としながら、慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。のち、Web開発ユニット起業、会社員、編集者、週刊誌記者などの仕事を経る。2013年、双極性障害と診断される。仕事をやめ、離婚などを経験し、2年間の治療を経て2015年に症状が落ち着く。以後も続いたうつ状態を、行動療法、認知療法的な視点から改善。現在は認知療法や精神障害者の福祉政策を学びながら作家活動を行っている。
瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)
漫画家。1980年、北海道札幌市生まれ。2004年、月刊アフタヌーンで四季大賞を受賞しデビュー。『臨死‼ 江古田ちゃん』『あさはかな夢みし』『ありがとうって言えたなら』などの漫画作品の他、『はるまき日記』『女もたけなわ』などエッセイ集も発表している。