熊の料理法って? 鳩って食べられるの? 猟師ならではのワイルドすぎる大自然メニュー

食・料理

公開日:2017/7/9

『サバイバル猟師飯: 獲物を山で食べるための技術とレシピ』(荒井裕介/誠文堂新光社)

「ブッシュクラフト」という言葉をご存じだろうか。自然に関するさまざまな知識や技術を学び、実行する生活様式を指す。衣食住に困らない環境が整っている日本に住んでいると忘れがちだが、人間の糧は自然の恵みである。人間と自然の関係を実感するうえで、究極のアウトドア生活であるブッシュクラフトが注目を集めている。

 ブッシュクラフターとして暮らし、著作も発表している荒井裕介氏の最新作が『サバイバル猟師飯: 獲物を山で食べるための技術とレシピ』(誠文堂新光社)だ。迫力の写真と詳細なレシピで綴る「完全アウトドア料理」の数々は、読者を知られざる狩猟の世界へと誘ってくれるだろう。

 狩猟と言われても映画やアニメの中でしか見たことがない人は多い。富裕層の娯楽のように扱われがちな狩猟だが、荒井氏の解釈は異なっている。自分の命のために他の命を奪うことや、自然と共生することの意味を実体験から学べる機会だと荒井氏は説く。荒井氏は狩猟のシーズンになると山にこもり、毎日の食料を自分で調達する生活を実践している。スーパーで肉や魚を簡単に手に入れてしまう現代人以上に、命の重さを理解しているといえるだろう。

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 そんな荒井氏が紹介する山の食材は、驚きの情報に満ちている。獰猛で恐ろしいイメージのある熊はたいへん美味で、荒井氏のお気に入りだという。ヤマドリの肉は鶏肉を超える美味しさだというし、鳩も味噌につけこめば十分に食べられるらしい。

 そして、獲物ごとに解体の様子が写真つきで解説されていく。最初はグロテスクに見えても、読み進めるうちに、食材や解体を行う人間に対して、神聖さを抱くようになっていくのが不思議だ。おそらく、荒井氏の文章が自然や猟師へのリスペクトを欠かさないからだろう。

 そうやって出来上がる「猟師飯」の写真の数々は、読者の心を奪うだろう。燻製やスペアリブなどの定番メニューのほか、成り行きから偶然にできたメニューが多いのも自然生活ゆえである。「鍋を汚したくなかった」という理由から発明された「熊の竹蒸し」は眺めているだけで白飯が欲しくなるほどの完成度だ。個人的には、「狩猟期以外での貴重なタンパク源」と表現される「イワナの刺身」が気になる。

 肉や魚だけでなく、山菜や木の実を使ったメニューも掲載されている。山では糖分が不足しているので、木の実を使った朝食メニューは荒井氏の幼い娘さんからも大好評なのだという。

 猟師飯では味もさることながら、食材を無駄にしないことも重要である。食べきれない肉は干肉にされ、非常食として保管される。解体の際に削ぎ落とされた細かな肉片にいたるまで、全てが食用として扱われる。

 肉だけではない。動物の皮はなめして敷物などに利用されるし、骨は加工してナイフに使われる。腱は糸になるし、内臓は薬になる。猟師には獲物を「捨てる」という発想がないのだ。そこには、自分が奪った命への揺ぎない感謝の念がある。

 本書はグルメメニューだけではなく、狩猟のマナーや食器の洗浄方法、焚き火の後始末も解説している。乱獲によって生態系を狂わせるのは猟師にあるまじき行為だし、山に自然外のものを残していくのもタブーだ。ゴミを発生させないためにも「獲物を残さず食べる」というルールは理にかなっているのである。歯ブラシや爪楊枝まで自然の素材で作ってしまうのは驚いた。それほどまでに荒井氏のブッシュクラフターとしての心構えは徹底している。

 自分の食料を自分で手に入れる行為は、自然のありがたみを理解することにつながる。だからこそ、猟師やブッシュクラフターの多くは環境問題や食育にも熱心な姿勢を見せる。飽食の時代だからこそ荒井氏のような視点で食と接することが、強く望まれているのである。

文=石塚就一