愛情を注いで育てた娘がAV嬢になったら? 真夜中に読みたい「夜のオネエサン」の母娘論
更新日:2017/7/24
AV嬢になった娘が、母を看病し看取る中で、自身の母娘関係や「夜のオネエサン」たちのリアルを綴った『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論(ははころん)』(鈴木涼美/幻冬舎)。著者の鈴木涼美氏は、元キャバ嬢、AV嬢。「慶應大学卒業、東大大学院修了、元日経新聞記者」という経歴が注目を集め、現在はタレント、執筆活動をしている。『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』は映画化され7月公開予定だ。
哲学者である父親と児童文学の研究者として知られる母親という、アカデミックな両親のもとに育った著者。娘はそんな環境にあっても、高校時代はブルセラでパンツを売り、卒業するとキャバクラ嬢、セクシータレントになるのだ。しかし「それなりに良識ある両親のもとに生まれて好き勝手生きている」という自覚がある著者は、「なんとなく中学の時に教えられた母理論は頭の片隅に残っていて、キャバクラ嬢は慶應生をしながら、AV嬢は東大院への受験準備をしながら全うした」という。
「過剰リベラル・喧嘩腰・70年代反骨精神の母親だが、つまらない教師やオカアサマたちよりは高尚のものだと思っていた」と著者の述べる母は、ぶれない個性的な観点を持ち、たくさんの言葉を紡ぎ、密度濃く娘と会話してきたようだ。しかし著者は、一点の曇りもないような幸せに、ちょっとした痛みが欲しい、時代を謳歌したいという気持ちで夜の世界に入るのだ。
「私の中で、母や父を愛することと、暗い深海のような夜の街に繰り出すことは、大した矛盾もなく両立するような気がしていた」というように、19歳で家を出て、キャバ嬢、AV嬢をしながら、親が知ることとなってからも、正月には30年続く家族行事に参加する著者。両親の複雑な思いは想像すらできないが、自分の血筋にプライドを持ち、自分自身にゆるぎない自信を持っている著者は魅力的ですらある。ちなみに著者のような高学歴なキャバ嬢を「学歴系キャバ嬢」というそうだ。本書は、さまざまな「夜のオネエサン」の家族模様とともに、夜の世界ならではの用語を知る面白さがある。
教育者という立場にありながら、AV嬢になるような娘を育てたことに責任を感じ、恥じ、娘を否定しながら愛し、愛しながらも許さないまま、母親はこの世を去った。著者は、「今もすべての呪縛から解放されるわけでもなく、不在をもって存在をアピールし続ける母とともにある」という。母とAV嬢だった娘の関係は、普通の母娘以上に複雑なだけに、さまざまな感情が絡み合った愛情は、はかり知れないほど深いのかもしれない。ギャルの話し言葉のような長い文章が読みにくいと思っていたが、いつの間にかハマり、ここに感情や情景が織り込まれていることに気づく。夜中に読むのが似合う一冊だ。
文=泉ゆりこ