「ジャンプ」レジェンド作家が当時を振り返る!「ギスギスしてた」ってホント!?【『こち亀』秋本治、『キン肉マン』ゆでたまご、『キャプテン翼』高橋陽一】

マンガ

公開日:2017/7/23


 1968年に創刊されて以来、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』など、大ヒット作品を数多く生み出してきた『週刊少年ジャンプ』(集英社)。まさに”日本一売れている雑誌”という名声をほしいままにしてきた人気マンガ誌だが、50周年を迎える2018年を前に、創刊から現在までを振り返る企画展を全3回にわたって開催する。


 六本木ヒルズ森タワー52階の森アーツセンターギャラリーで7月18日~10月15日に行われる第1弾では、「週刊少年ジャンプ展VOL.1 創刊~1980年代、伝説のはじまり」と題して、黄金期へと急成長を遂げていった黎明期~80年代を大特集。60作品350点以上の原画を中心に、貴重な資料やシアター映像などを展示する。子供のころに目を皿にして読んでいた直撃世代にとっては、懐かしさと嬉しさで失神寸前の豪華ラインナップだ。


 7月13日には、本企画展を前にプレス向け内覧会を実施。『週刊少年ジャンプ』の人気マンガ家たちによるトークセッションが行われた。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治さん、『キン肉マン』のゆでたまご先生こと嶋田隆司さんと中井義則さん、『キャプテン翼』の高橋陽一さんという、メディアにもめったに現れないレジェンド作家4人が夢の共演! 読者代表のケンドーコバヤシさんをまじえながら、人気マンガ家たちの意外なエピソードが数多く披露された。気になるトークセッションの一部をレポートしたい。

advertisement

秋本「原画から熱気が伝わってくる」

 まずはトークを前に、展示を見て回ったというレジェンドたち。「やっぱり当時一生懸命描いたやつなんで、すごい熱気が伝わってきました」と秋本さんが語ったように、やはり同世代の仲間たちが描いた生原画に注目された様子。「自分ではここまで描けないなあって勉強になりました」とうなずく中井さんの一方で、嶋田さんは「同じマンガ家さんに見られるのは恥ずかしい」と苦笑い。また、「海外のファンの方々にもぜひ来てほしい」という高橋さんには、ケンドーコバヤシさんが「今やCMタレントとしても活躍されている高橋先生」と返して笑いを誘った。


 続いて「当時と今とで作家たちの姿に何か変化は?」という質問には、「少年の心を持っているから今も変わらない」という秋本さんのコメントに、「だからみんな難しい話ができないんですよね。政治経済とか」(嶋田さん)や「髪の毛は寂しくなりましたけど」(中井さん)と冗談をまじえつつも、全員が同意。

高橋「秋本先生は同じ地元出身でお手本のような存在」


 そんな大先輩、秋本さんに初めて会った時の印象を聞かれた嶋田さんは、「当時のジャンプ作家って、本宮ひろ志さん、車田正美さん、宮下あきらさんみたいな、ちょっとバンカラ風な方が多かったんですけど、秋本さんは型破りな両さんのイメージとは真逆の優しい人で驚きました」というエピソードを披露。中井さんも、秋本さんや編集者たちと中華料理店で食事をした思い出を語った。一方、同じ葛飾区出身のマンガ家としてお手本にしてきたという高橋さんには、秋本さんも「やっぱり地元からもう一人作家が出たっていうのは嬉しかった」などと語り、ゆでたまご先生のお二人を含めて、後輩のマンガ家たちにスケジュール管理の秘訣など、連載のコツを教えてきたことを明かしてくれた。

嶋田「当時は連載作家みんな敵」


 ところで『週刊少年ジャンプ』と言えば、“アンケート至上主義”などに代表される、弱肉強食の激しい人気獲得競争が有名だ。ケンドーコバヤシさんも「何かギスギスしたものがあるのかと思ってた」と当時の様子に興味津々だったが、「連載陣全員がライバル。ベテランも新人も同じ目線で投票される」(秋本さん)と語ったのを機に、デリケートな話題へ。

 嶋田さんは「今でこそ(高橋)陽一君とこうして仲良くしゃべってますけど、当時は絶対にしゃべりたくない、一緒にもいたくないくらいライバル。編集者同士も仲悪かったですし、『キャプテン翼』だけでなくて『北斗の拳』も『キャッツ・アイ』も『ドラゴンボール』も、全員が敵でした」などと、当時のギスギスした状況を暴露。ライバルたちのストーリー展開を逐一チェックして、相手のクライマックスに温めていた秘蔵のネタをぶつけたりと、まるでマンガのような情報戦が繰り広げられていたことを明かした。

中井「コンビ内でもライバル関係があった」


 対する高橋さんは「ゆでたまご先生は自分と同い年で、先にデビューされていたので、ライバルというよりは目標みたいな感じでした」とコメント。逆に、嶋田さんとコンビで作画を担当してきた中井さんは「面白い原作を描いてくると、やっぱりいい画を描かないといけないっていう気持ちでやってました」と、コンビ内でも競い合っていたことを披露した。

 そんな切磋琢磨するライバル秘話を聞いたケンドーコバヤシさんは、秋本さんにもライバルがいたのか質問。秋本さんも「『東大一直線』の小林よしのりさんとか、『1・2のアッホ‼』のコンタロウさん、『すすめ‼パイレーツ』の江口寿史さんとか、ライバル意識はそこまでないけど、同期だから一緒に頑張んなきゃと思ってました」などと話し、一緒に連載に励んだ仲間たちとの往時に思いをはせた。

秋本「週刊だけなら順当に描ける」

 また、「連載の中で最大のピンチは?」という問いには、「週刊だけならスケジュールを管理して描いているのでわりと順当だけど、読切が重なるとピンチ」と語る秋本さんに、高橋さんも「精神的にも体力的にもきついですね」と同意。さらに嶋田さんが『キン肉マン』が2年目に差し掛かったころのアメリカ遠征編で、打ち切りのピンチに陥ったという原作担当ならではのエピソードを話すと、中井さんは「こっち(嶋田さん)が原稿遅いんですよ!」と笑いながら、印刷所の担当者が原稿を受け取るために仕事場まで押しかけてきたエピソードを教えてくれた。


 そんな中、ケンドーコバヤシさんたっての「もし自分が先生たちの作品に登場するとしたら、どんなキャラになりますか?」という希望から、レジェンドたちによる大喜利タイムへと突入。


 まずは「両さんの競馬仲間」をイメージして描いたという秋本さん作のケンドーコバヤシさんは、まさに『こち亀』に出てきそうな、いかついキャラクターがお目見え。


 続いてゆでたまご先生を代表して中井さんは、「どうしようもないのでキン肉族にしてみました(笑)」と、『キン肉マン』でおなじみのキン肉族のマスクをかぶった、ひげ面の超人キャラクターが登場。


 ラストを飾る高橋さんは、ケンドーコバヤシさんが『キャプテン翼』の中でも大好きというドイツ人選手、ヘルマン・カルツの弟という設定で、”カルツ・コバヤシ(略してカルコバ)”という新キャラクターを披露して会場からはどよめきの声が。


 また、ケンドーコバヤシさんの着ているTシャツにレジェンドたちからイラスト入りのサインを直に描いてもらうと、「玄関先に飾って、宅配業者の方をビビらせてやりますよ!」と、思わぬサービスに感激する一幕も見られた。

嶋田「当時は1位を獲らないと怒られた」

 こうしてトークセッションは終わり、最後は取材陣からの質問タイムへ。記者からの「週刊少年ジャンプが日本一になった要因」について聞かれると、秋本さんは「多少未成熟だったとしても、若い作家を自由にやらせてくれたことで、作家が描きたいものがダイレクトに出たことが大きい」と回答。一方、嶋田さんはやはり”アンケート至上主義”を挙げ、「僕たち80年代の作家っていうのは、1位獲らないとマンガ家じゃないっていう時代で、2位に落ちたらめちゃめちゃ担当編集に怒られた」と語ると、秋本さんが「嶋田先生は関西人だから極端(笑)。そんなに厳しくはないですよ」とすかさずフォローして会場は笑いに。

 だが、マンガ家と担当編集が二人三脚で密接なやり取りを行っていたことは事実なようで、「編集スタッフの方々の本当に面倒見のよさというか、アフターケアはずば抜けて良かった」と中井さんが語ると、秋本さんもうなずいて「新人マンガ家が上京して家(仕事場)を借りる時は、編集者が代理人に」と親身になってくれた話を披露。高橋さんも「たしかに新人が一番やりやすい環境だったのかなって思います。ベテランだからと優遇されず、本当にガチンコ勝負の場があった」と当時を振り返った。

秋本「新しいことにチャレンジしてほしい」

 最後に「後世のジャンプに伝えたいものは?」という質問には、「創刊以来ずっとチャレンジしてきた、新しいことをやるというスピリット」と秋本さん。また、嶋田さんが「SNSの声を気にしすぎないで、整合性が合わなくても面白い、ハチャメチャな作品がまた出てきてほしい」と、これからマンガ家を目指す新人たちへのエールを送ると、中井さんも「もう少し男臭いマンガもあっていいと思う」と続け、「努力・友情・勝利というジャンプの永遠のテーマをしっかりと継承してほしい」とコメント。高橋さんは「どうしたら人気が取れるかだけを考えてマンガ作りが行われちゃう傾向にあるので、新しいものにチャレンジしていく雑誌であってほしい」と、次世代の『週刊少年ジャンプ』に向けて期待を込めた。

次回は気になる展示内容もレポート!

 嶋田さんが「こうして記者のみなさんが嬉しそうな顔をしてくれるのが一番ですね」と笑っていたように、耳を傾ける記者団も懐かしさで童心に返っていた今回のトークセッション。日本中を熱狂させたジャンプ黄金期のレジェンド作家たちが語る貴重な言葉に、イベントは当初の終了時間を大幅に超える盛り上がりぶりだった。

 「週刊少年ジャンプ展」は7月18日~10月15日のVOL.1を皮切りに、「VOL.2 1990年代、発行部数653万部の衝撃」が2018年3月~6月、「VOL.3 2000年代~、進化する最強雑誌の現在」が2018年7月~9月と、来年のスケジュールも徐々に判明。今後の「週刊少年ジャンプ展」の詳細情報もどうぞお楽しみに!

【開催概要】
■一般公開会期:2017年7月18日(火)~10月15日(日)
■会期中無休 ※平日 10:00~20:00(最終入館19:30)、土日祝日及び8月14日(月)~18日(金) 9:00~21:00(最終入館20:30)
■会場:森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 52階)

「週刊少年ジャンプ展」公式サイト
http://shonenjump-ten.com/

取材・文=小松良介
写真=内海裕之