世界をざわつかせた「キティちゃんは、猫じゃない! 」事実を公表して話題になった著者が明かした秘密とは?
公開日:2017/7/25
ご存じのように「KAWAii(カワイイ)」は今ではTSUNAMI(津波)同様、世界で通じる日本語のひとつだ。2012~13年頃から、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、BABYMETALなどのアーティストが海外進出したことも、日本発の「KAWAii文化」の広がりを後押しした。しかしその元祖的な存在はと言えば、70年代から世界進出を果たしていたサンリオの大人気キャラクター、ハローキティなのである。
ではいったい、なぜハローキティは世界で受け入れられたのか? そして、キティを軸とした「KAWAii文化」から見えてくる日本とは、どんな国なのか? そんな考察を外国人視点から学んでみたいという人にオススメしたいのが、『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?――“カワイイ”を世界共通語にしたキャラクター』(クリスティン・ヤノ:著、久美薫:訳/作品社)だ。
日系人のハワイ大学人類学部教授で人類学博士という著者のヤノ氏は、1998年から2010年までの12年をかけてキティの調査研究を行い、その成果を約500頁の大作にまとめたのが本書だ。そして著者は、キティと「KAWAii文化」を人類学というアカデミズムの見地から分析することで浮かび上がる日本のキャラクター文化が、日本国内のみならず、世界規模で担う経済的・精神的役割を解明しようと試みる。
そんな本書には、キティを取り囲む様々な人たちが登場する。本書冒頭には、日本のサンリオ本社から、キティの3代目デザイナーである山口裕子氏がインタビューに答えている。キティと言えば、口がないのが特徴だが、その理由をご存じだろうか?
山口 キティを眺める人が、そこに自分の感情を映して読み取れるようにするためです。(中略)皆さんが幸せならキティも幸せそうに見えるし、悲しいときはキティも悲しげです。こうした心理的メカニズムのことを踏まえて、キティにはあえてどんな感情も面に出さないようにしました。
本書ではこうしたサンリオの企業戦略も詳細に分析されるが、多くのページは主に米国在住の成人したキティファン(キティファンを公言するレディ・ガガのエピソードなども登場)およびアンチ派への取材で構成されている。中でもユニークな現象だと感じたのは、米国では、LGBT(性的マイノリティ)団体やパンクロック・アーティストたちが、自分たちのステイタスを代弁するアイコンとして、キティを活用しているというレポートだ。
こうしたキティに対する賛否両論の取材を通して、著者は自身の造語である「ピンクのグローバリゼーション」(ピンク色に象徴される日本発「KAWA ii文化」が世界に広がっている現象)の本質を浮き彫りにしていく。
そして最後の「キティが生まれた国」と題された第8章では、企業から警察、首相、政府機関まで、すべてがマスコットキャラクターを持つ日本のキャラクター文化の分析や、全国の土産物店で活躍するキティを通して見た日本の贈答文化などへも言及され、「KAWA ii文化」の背後にある日本人の精神などが考察されている。
そんなハローキティことキティ・ホワイト(ロンドン生まれ)は、2014年11月1日に40歳の誕生日を迎えた。これを祝して米国カリフォルニア州の全米日系人博物館では、世界最大規模のハローキティ展覧会「ハロー!キティのスーパーキュートな世界への体験」(2014年10月11日~2015年5月31日)が開催され、この展覧会を取りまとめた学芸員が本書著者のヤノ氏だった。
ヤノ氏はこの展覧会の準備中、サンリオ本社からのある訂正依頼に驚愕する。それは「キティは猫ではなく、人間の女の子です」というものだった。著者がこの事実を知らされたのは、本書執筆後のことだ。そして、このことの顛末に関しては、本書あとがきで訳者が詳細に記しているので、興味のある方はぜひ、そちらもしっかりと読んでほしい。
本書を読むと、キティのプロフィールがしっかりと調べあげられ、記されているにもかかわらず、それでも著者は「キティは猫」と信じて本書の執筆にあたっていたようだ。もっとも、キティが「猫か人間か」ということは、世界中のファンにも、そして本書の分析にも大きな影響を与えていないことも事実だ。「眺める人が自由に創造できるアイコン」それがキティであり、世界を魅了するその秘密なのだから──。
文=町田光