騙されてない? フェイクニュースかどうかすぐ分かる3つのポイント
公開日:2017/7/31
「インターネットは性善説でまわっている」とは、私がインターネットの勉強を始めた90年代の終わりに講師から聞いた言葉だが、2017年現在も世間一般のベースにあるのは「ネットに書いてあることは正しい」という認識ではないだろうか。
だが、2016年末に起こった医療系サイト「WELQ」の問題を出すまでもなく、現状は虚偽と事実、事実のように書かれた意見など、玉石混淆な状態だ。だからといってインターネットから情報を得ないわけにはいかないだろうし、そもそも新聞や雑誌やテレビが100%信頼できるというわけでもない。本書『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽弘道/新潮社)は、そんな「情報のカオスの海」から「事実の見つけ方」を指南した本である。
著者の烏賀陽弘道氏は新聞記者→週刊誌記者→編集者→フリー記者と、活字媒体のあらゆる職種を経験しているジャーナリストだ。記者が記事を書くためには、その根拠となる情報が重要である。だから情報の見極め方に精通している。本書にある、情報の見分け方についていくつか紹介しよう。
■書いてないことに注目すべき
2010年8月30日付産経新聞朝刊に「ウォークマン、iPod超えへ ソニー初の悲願 8月国内販売」という記事が載った。これは、携帯音楽プレーヤーの8月の国内販売台数において、ソニーのウォークマンが米アップル社のiPodを抜く見通しで、ソニーの音質が売りの「音楽専用プレーヤー」に特化した販売戦略が実を結んだ結果だ、というものだ。
なるほど、と納得してしまいそうだが、ここには書かれていないことがある。
・確かにウォークマンはiPodを追い抜いているが、8月の1ヶ月に限っていえば、の話である。
・iPhoneに音楽を聞ける機能を搭載したので、ユーザーがiPodからiPhoneに移った。ゆえに、iPodの売上減少はソニーとの競争の結果ではない。
・iPodは新製品の発売が予定されていて、ユーザーの買い控えが起こっていた。
これらの周辺情報を知ると、記事の理解が全く異なる。ここで烏賀陽氏が勧めるのは、「『記者が何を書いたか』ではなく、むしろ『何を書かなかったか』に注意を向ける習慣を身につける」ということだ。
こうした記事が有害なのは、重要な事実を視野の外に追いやってしまうからだ。「書かないことによる消極的隠蔽」が起こっている。本来、報道は「では、なぜソニーはアップルに敗北を喫したのか」という「なぜ」を問わなければならない。そうでなければ、「未来に同種の敗北を回避する」という「再発防止」ができないからだ。
■ステレオタイプに沿ったストーリーは要警戒
東日本大震災に関し「略奪や暴動がなかった」「助け合いの精神」などと海外メディアが日本人を絶賛した、とよく耳にする。だが、これらの出典を調べてみると「なぜ日本では災害時も略奪や暴動が起こらないのか」という問いかけの記事は見つかるが、ただ日本をほめているだけ、という記事は見つからない。また、海外メディアでも、被災地での略奪や犯罪の増加を報じている記事は多くある。こうなってしまったのは、「海外メディアが3・11時の日本人の冷静で秩序だった行動を絶賛している」という結論を先に設定し、それに沿う海外報道記事の中の一文を、文脈から切り離して集めてきたからではないか、と烏賀陽氏は考える。なぜかといえば、こうした「世界が日本を称賛」譚は「読者が読みたがる話」だからだ。
■フォロワー数は信用を保証しない
インターネットの時代になって「発信者」の数が爆発的に増えた。ネットの力が増すにつれ、新聞、雑誌、書籍などの旧マスメディアが「ネットで注目されている人」を発信者として選ぶようになった。注目度は、「ブログのページビュー数」「ツイッターのフォロワー数」「フェイスブックのフレンド数」など、数字として表示される。しかし、ごく当たり前の事実として、数字は質を保証しない。ネットでの注目度指数が高い発信者が「質の高い言論」を発しているとは限らない。
旧メディア側に「ネット注目度」という指数が浸透するに従って、旧メディアでも発信者をどこまで信用すべきか、基準が混乱している。実名発言者であっても、旧メディアの発言でも、その発言する内容を精査しないと、事実として信用できるかどうかわからない時代になっている。
現役ジャーナリストだけあって、本書の情報に対する考え方は厳しいが、正確さを考えれば重要なことばかりだ。今は情報の見極め力が必要な時代である。人間は考えることができるが、知識や情報が間違っていては見誤りかねない。一読をおすすめしたい本である。
文=高橋輝実