老人は痛い…なってみて初めてわかる、老人1年生の本音とは?
公開日:2017/7/31
「大人はわかってくれない」とはいつの時代も若者の常套句だ。だが、大人は若者を全くわからないわけではない。なぜなら、どんな大人でもすでに若者を経験済みだからだ。
一方で、いい歳の大人でもわからないことがある。しかもありふれた、誰もが経験することで、だ。それが本書『老人一年生 老いるとはどういうことか』(副島隆彦/幻冬舎)のテーマである。
と著者の副島隆彦氏はまえがきで述べている。ここでいう若い人というのは、40代、50代の人たちを指している。そのくらい「老人になる」というのは、それまでとは大きく違うらしい。
第1章の冒頭に、こんなエピソードが紹介されている。
国際結婚した50歳の娘が、80歳になる自分の父親が病気になったので、外国から帰ってきた。娘は病室に入るなり「元気を出しなさいよ!」と言って励ましのつもりでかけ布団の上からバンバンと父親を叩いた。父親もはじめは「うんうん」と言っていたが、娘が体の痛みをちっとも理解してくれず、あまりにバンバン叩かれ励まされるので、そのうち、ついに嫌になって、「もうお前とは口も利きたくない」と言ってしまった、というものだ。実の親子であっても、老人の痛みは理解されない、と副島氏は嘆く。
そういう副島氏も、ついこのあいだまでは老人の気持ちが全くわからなかった、という。自分がその立場になって初めてわかる、と。
お年寄りを大切にしましょう、いたわりましょうというモラルは幼いころから教えられるが、そこから一歩進んで「痛みを理解する」という境地にはなかなか至らない。そもそも痛みというのは、それが体の痛みであれ心の痛みであれ、それを体験した者にしか真に理解はできないのかもしれない。
第1章は「老人は痛い。だから老人なのだ」というタイトルどおり、老人は痛いということが切々とつづられている。どのくらい痛いのかといえば、「今、日本では年間4万人ぐらいが自殺していると思う。おそらく、その半分は病苦による首つり自殺だろう」と、生きているのがつらいくらいの苦痛ということだ。
だが「痛い、痛い」と嘆くのは第1章で終わりだ。第2章以降では、自身の体験談とそれにからめて日本の老人向け医療の在り方(特に整形外科について)や治療法、健康法などへと話は展開されていく。自らの治療経験から得たことではあるが、かなり大胆な発言や提案が含まれている。それらは、世間でいわれていることや医者のことばをうのみにせず、自分で調べて考えることを放棄しないこと。そして、納得したうえでさまざまな選択をしていくことが、老人であっても大事である、と警告しているかのようだ。
本書は、若い世代(40代や50代)に向けて「老人はたいへんなんだ」というメッセージを送るよりも、著者と同世代の60代の世代に向けて、痛みや医者との付き合い方を示すことに力がおかれている印象だ。そのせいか文字も一般の新書に比べて大きい。特に腰痛治療の体験談は詳細なうえに本音が満載なので、腰痛に悩む人の参考になるだろう。
文=高橋輝実