予防栄養学のスペシャリストが教える、日本人が知らない新しい和食のとり方と美容パワー
公開日:2017/7/30
日本人の伝統食、和食。東の端っこの小さな島国で生まれたこの食文化は健康長寿食として世界の注目を浴び、ユネスコの無形文化遺産に登録されるまでになった。
日本国外の美容・健康に気を遣う人たちの間で、和食は根強い人気を保ち続けている。豆腐や醤油、味噌、抹茶、しらたきなど海外で手に入る日本の食材も増えてきた。
肌や髪がきれいになる。太りにくい。身体の中から健康になれそう。そんなイメージが和食にはあるらしい。
本書『和食の食べ方を知れば、女性はもっと美しくなれる』(エリカ・アンギャル/学研プラス)の著者も和食の魅力にとりつかれた1人だ。
オーストラリア生まれの著者は高校生のとき交換留学生として初来日。このときの経験が彼女ののちの運命を決めた。
オーストラリアにいた頃、著者はスイーツやファストフードの買い食いのせいで肌荒れやニキビに悩まされていたという。それが日本の家庭にホームステイし、和食を食べているうちにすっかりよくなってしまったのだ。
それがきっかけで日本に興味を持ち、大学卒業後は日系企業に就職。その後栄養学や健康科学を学び、栄養コンサルタントに転身した。以来ずっと日本に住み、日本人女性向けに食と健康にまつわる情報を発信し続けている。
著者が憂えているのは日本の伝統的な食習慣が特に若い世代の間で失われつつあることだ。和食の基本となる献立といえば、ご飯と味噌汁に、野菜や魚のおかずを数品加えた一汁三菜。しかし最近では食の欧米化が進み、パンなどの小麦製品や肉の消費量が増えている。味噌汁を飲む人も減っているようだ。
魚の消費量もどんどん減り、欧米と同じように肉の摂取量の方が増えてきています。その一方で、日本人女性は、海外から入ってくるスーパーフードには常に高い関心を持っています。
著者によれば、海外における和食ブームのきっかけは、日本人女性の肌や髪の美しさ、寿命の長さから和食の美容・健康効果に注目が集まったことにあるという。しかし海外の熱視線が和食に集まる中、当の日本人たちは古き良き食の伝統を捨て、新しい食の世界に旅立とうとしているのだ。なんとも皮肉な結果ではないか。
著者は警告する。食生活の変化によって、日本人の健康や長寿が脅かされるのではないかと。
野菜や発酵食品、大豆製品に動物性タンパク質を組み合わせた和食は、一汁三菜で献立を組み立てれば自動的に栄養バランスが整う仕組みになっている。もしおかずが用意できない場合でも、お味噌汁にタンパク質系の素材や野菜を多く入れればどうにかなる。
さらにご飯による血糖値の急上昇は野菜やタンパク質の摂取で回避し、取りすぎた塩分は野菜のカリウムで相殺。
デメリットを回避するところまで、なんとなくできあがっているのが面白いところだ。しかも和食は緑茶、味噌、わさび、きのこ類、梅干しなどスーパーフードの宝庫でもある。著者曰く、そこにオリーブオイルなどの良質の脂質を加えれば、世界最強のアンチエイジング・長寿食が完成するらしい。和食、おそるべしである。
本書で紹介されている食事法は、私たち日本人のほとんどにとっては馴染み深く、安上がりなものである。特別な素材なんて使わない。ここは日本、和食の本場だ。必要なものの大部分は一般のスーパーで手に入る。
お味噌汁を飲む、こたつで緑茶と一緒にみかんを楽しむ…。そんなささやかで伝統的な習慣が私たち日本人の健康を守ってきた。
私たちはワクワクするような目新しい物事に惹かれ、つい身近なもののありがたみを忘れてしまうことがある。ハリウッドのセレブが実践する健康法だとか、医師が提唱する新・食事法だとか。
実際それで成功している人もいるわけだし、こうした試みを否定するわけではない。でもたまには立ち止まって、私たちの先祖が苦労して作り上げた「和食」の世界に触れてみよう。著者が本書で教えてくれたように意外に新しい発見があるかもしれない。
文=遠野莉子