新しい働き方をインスパイアする定食屋!? 未来食堂・小林せかいインタビュー
公開日:2017/8/5
誰かを応援したい気持ちを込めました
今回採り上げていただいた本は当初、実はあんまり執筆に乗り気ではなかったんです。これまでに2冊本を出させていただいたのですが、本を出してから本屋さんに行くと改めて、「世の中にはなんとたくさんの本があるんだろう!」と驚いて。「こんなにたくさん出ているのに、また似た趣旨の本を出したら迷惑かも……」と思ってしまったんです(笑)。でも、編集さんに本書はまた新しい切り口で作りたい、と提案していただいて、よし、それならとこれまでにない本を作ろうと取り組み始めたんです。
新しいアイディアを思いつき、どうすれば実現できるのか考え、実際にやってみる――という流れを私の経験からお伝えしているのですが、本書は特に「続けること」と「そのアイディアを多くの人に伝えること」の方法論を掘り下げています。「続けること」って、とても大事で、でも同時にとても大変なことだと思うのですが、そこに紙幅を割いている本があまりないなと思っていて。その仕組みづくりについて書いておきたかったんです。おかげさまで続々(?)重版しています。
食堂の厨房でうんうんいいながら執筆していたのですが、自分で自分を分解しながら書いているので、読者さんにとって何がおもしろいのか正直わからない。でも誰かを応援したい気持ちは強くあるから、その気持ちを伝えようという想いで書き切りました。
この本は分類としてはビジネス書ですよね。でも私、これまであまりビジネス書を読んだことがなかったんです。だから売れているビジネス書のいいところを、とことん研究しました。大事なところは太字&傍線があると頭に入りやすいなあ、とか、章の最後に〈まとめ〉があると親切だとか。その〈まとめ〉を手書きにしたのは本書のひとつのこだわりです。手書きだからこそ伝わるものがあると思うし、多くのビジネス書と「見た目」でも違いをつけたかった。手書きを載せるって、制作プロセスとしては普通の本よりうんとめんどうだったのですが(笑)、編集さんは私のアイディアを一度も反対せず、最後の最後まで粘って一緒に作り上げていきました。心強かったですね。
未来食堂はいろんなメディアに取材していただきましたが、インタビューに応えることと本を書くことは、同じ「他の人に自分の考えを伝える」ことでも、やはりまったく違いますね。本当は、本を出す前、ちょっとこわかったんです。「たかが定食屋がえらそうなことを」とお叱りを受けるんじゃないかなって。でも本を読んで来店してくださった方や「小説を読むような感覚だった」「読んで泣きました」と言ってくれる方もいて……書いてよかったな、と。最後まで並走してくれた編集さんには改めて感謝しています。
まずはぜひ一度、未来食堂にごはんを食べに来ていただけたらうれしいです。
小林せかいさん。未来食堂店主。東京工業大学理学部数学科を卒業後、日本IBMやクックパッドに勤務。退職後、飲食業界で修業し、2015年、東京・神保町に定食の店「未来食堂」をオープン。著書に『未来食堂ができるまで』(小学館)『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)がある。
未来食堂
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫