大竹しのぶ「言葉を知るというのは、感情を育てること。本を読む大切さは父に教わりました」
公開日:2017/8/5
谷川俊太郎さんの訳でも知られる、レオ=レオニの絵本が大好きだという大竹しのぶさん。本誌で紹介してくれた『フレデリック』のほか、『スイミー』もお気に入りだ。
「ちっちゃいちっちゃいスイミーが、仲間を助けるため、一緒に生き抜いていくため引っ張っていくっていうのがいいなあ、って。団結心とか、勇気とか、そういうものが描かれているところが好きですね。私自身、わりと正義感あふれる子どもだったので、戦いに挑んでいくというか、あきらめない姿勢に共感します。しかもそれが、押しつけがましくなく書かれているのが素敵。谷川さんの言葉もいいんですよね」
自身のライブコンサートでは、谷川さんの詩集を朗読することもあるという。「男女のことを語っている詩は、すごく生々しくて、ちょっとエッチなところもあるんだけど、本当の愛ってどういうことかを語っている気がして、好きなんです」
読書が好きな原点は、父親からの贈り物だ。
「毎年、父は自分の誕生日になると、『満〇歳の父より』って署名を添えた本を贈ってくれたんです。最初は『泣いた赤鬼』。次は『アルプスの少女ハイジ』。少し大きくなると『銀の匙』、中学生になると山本周五郎。その年齢にあわせて読んでほしい本を選んでいたんでしょうね。若くして求むれば老いて豊かなり、とか、その時々で父が感銘をうけた言葉も書かれていました。言葉を知るというのは、感情を育てること。そして知識を得ることで、知性も育つ。本を読む大切さを父は教えてくれました。私、だいぶ父親っ子だったんです。正義感が強いのも、曲がったことの大嫌いな父譲りの性格ですね」
そんな大竹さんだから、22歳でミュージカル『にんじん』の主演が決まったときも、原作小説はすでに読んでいた。
「えっ、あれがミュージカル? というのが率直な感想で。とても悲しい、さみしい少年の物語で、ラストもすごく救われるというわけではない。だけど山本直純先生の音楽を聴いたとき、美しさのなかに哀しみが潜んだ、忘れられないメロディになりました。38年経った今でも、全部、そらで歌うことができるくらい。全身で、愛されたいにんじんの孤独を歌っていたあのとき、もっと公演を重ねて彼のキャラクターを深めていきたいと思っていました。あのころは自分の役を演じるので精いっぱいだったけど、いまなら、にんじんを愛したくても愛せずに苦しんでいるお母さんの気持ちも少しわかるような気がするし、もう少し客観性をもって演じられたらと」
ちらしを見ながら、「このメインビジュアル大丈夫ですか?」「おばさん何やってるんだ、とか思わない?」と笑う大竹さん。だが、天真爛漫な少女も業の深い母親も、変幻自在に演じきってみせるのが大竹しのぶという女優の凄みだ。にんじんだけでなく、周囲の大人たちにも寄り添えるようになった今だからこそ、見せられる表現があるに違いない。
「でもけっきょく、自分自身ってそんなに変わらないものかもしれなくて。あのとき足りなかったものは、今も足りないままだと思う。そのとき一生懸命やって、完璧だと思ったものも、あとから振り返れば全然だめだったりするし、きっと、そのときそのときで必死に頑張るだけなんでしょうね。70歳になっても80歳になっても、もしかしたら同じなんじゃないかな。ただ、舞台は芝居がどれだけ好きなのかという想いが如実に出てしまう場所なので。表現したい、伝えたいという、芝居に対する美しい心を忘れずにやっていければなと思います」
(取材・文=立花もも 写真=冨永智子)
おおたけ・しのぶ●1957年、東京都生まれ。テレビ、舞台、映画で女優として幅広く活躍。映画『黒い家』『阿修羅のごとく』『後妻業の女』など、さまざまな作品で日本アカデミー賞ほか各賞を多数受賞。2011年には紫綬褒章受章。ドラマ『ごめん、愛してる。』に出演中。公開中の映画『メアリと魔女の花』には声優として参加している。
ヘアメイク=新井克英(e.a.t…) スタイリング=椎名直子(Tiber Garden)
衣装協力=イヤリング210万円、ブレスレット147万円(ともに、ブルガリ/ブルガリ ジャパン TEL03-6362-0100) 税別価格
冬にそなえて、とうもろこしや木の実、小麦に藁を集め始めるねずみたち。朝から晩まで働く仲間たちをよそに、フレデリックはぼんやりしている。「どうして働かないの?」と聞く仲間たちに、「働いてるよ」と答えるフレデリックだが、みんなのためにお日さまの光や言葉を集めてるってどういうこと……?
舞台『にんじん』
原作/ジュール・ルナール 演出/栗山民也 出演/大竹しのぶ、中山優馬、秋元才加、中山義紘、真琴つばさ、今井清隆、宇梶剛士、キムラ緑子 新橋演舞場 8月1日~27日 大阪松竹座 9月1日~10日
●フランスの片田舎に生まれた、真っ赤な髪で顔はそばかすだらけのフランソワ(大竹しのぶ)。だけど家族でさえも、彼を名前ではなく「にんじん」と呼ぶ。母親(キムラ緑子)はにんじんにばかりつらくあたり、理不尽な孤独を抱えて生きていた。そんなある日、母の銀貨が一枚なくなり、にんじんは覚えのない罪をかぶせられるのだが……。