柄本時生「俳優は声を出す職業。まず、その役の声を探します」
公開日:2017/8/5
「14歳っていったら、なんだろう、いじめられてた時期ですね。僕、いじめられっ子だったんです」
14歳の思い出は、ちょっと意外な告白から始まった。
「学校で無視されてたのに、地元の下北沢に帰れば、友達がいたんで、まったく気がついていなかったんです。ある日、机にチョークがバラまかれていて。それで、あ、俺、いじめられてたんだって。そのあと、すぐ夏休みに入ったんですが、その頃、地元の幼馴染がもれなく3人とも不良になっちゃって、いつも4人でつるんでいたから、これはついていくしかないなって、僕も金髪にしたんですよ。自分を変えたいっていうのはなかったんですが、当時はまあ、やっぱり無理してましたね。幼馴染たちは、国士館で柔道をやりながら不良やってたんで、めちゃくちゃ強かったんです。僕が何もしなくてもケンカに勝ってくれたから、見事にスネオをやってましたね。金髪にして、眉毛もなくなって、夏休み明け、学校に行ったら、あいつ、ヤバくなったぜ、逆にこっちがやられるんじゃねえかって、みんなから急に話しかけられるようになって。僕としては地元の友達についていかなきゃってやったことが、なんか功を奏しちゃったみたいで」
マンガ誌にハマっていたのも、そのくらいの時期だったとか。
「ちょうど『銀魂』が始まったのがその頃だったんです。映画になったじゃないですか。出たかったなあ。福田(雄一)監督に写真、送ったんです、なんの役でもいいからって。当時は、月曜は『ジャンプ』でしょ、水曜は『サンデー』と『マガジン』、木曜に『チャンピオン』、毎週全部買ってましたから、下北のキオスクのオバちゃん、めちゃめちゃ仲良かったんです(笑)。だけど、小説は一冊も読んだことがない。学校で読書感想文書かされた時も、はじめの7ページを読んで、真ん中の7ページを読んで、ラストの7ページを読んで、書くんです。だいたいそれでわかるんじゃないかって。戯曲は読むんですけどね、いまだに小説は読まない。読みたくなったら、いつか読むだろう、みたいな」
映画のオーディションに受かって、俳優デビューしたのも、14歳の時。父は柄本明、母は角替和枝、兄は柄本佑という俳優一家に育ったが、「これ以外にも道はあるっていうのは、今でも思うことがある」と言う。
「今から料理の学校に行って、そっちの道に行ったって、別にいいよなって。スクープ記者とか、カッコいいじゃないですか。そういう役を演じることはあっても、本物にはかなわないですから。14歳でデビューしたとき、ずっと続けていくっていう勇気はなかったですね。学生っていう逃げ道が欲しくって、大学を受験したけど、落ちて、そこからです。18歳の時ですね、もう覚悟決めなきゃなって意識しはじめたのは。反抗期とかもなかったんですよ。反抗したこと、1回もなかった。兄ちゃんは、ちょっと反抗期っぽい時期があったんですが、映画の仕事が始まって、帰ってきたら、いきなり敬語になってたんです。映画の現場って、当時まだ完全な縦社会で、グーでパチコーンいかれるくらい当たり前の世界でしたから。文句があるけど、黙って仕事してる男の姿っていうのはカッコいいですよね。そういうのを見られたのは、やっぱり良かったなって思っています」
舞台は「他人様に見られることを再確認する場所」だという。
「映画やテレビの撮影現場っていうのは、どう転んでも周りにいるのは身内の人たちじゃないですか。舞台は、どうしたって他人様に見られる。それが怖いんだって再確認できる場所だと思っています。慣れたらおしまいだなっていうのは、いつも念頭にありますね」
役づくりをする時には、まずはその役の声を探す。
「俳優って声を出す職業ですから、その役の声を探さないとダメだって思ってます。このあいだ、稽古が始まったところなんですが、いかんせん、まだその声がつくれてないっていうか、もっと考えないといけないなって。僕は、こう観てほしいとか、あんまりだいそれたことは思わないんです。観た方が、14歳の頃、こんなことがあったなって思い出して、楽しんでいただければと思っています」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=冨永智子)
柄本時生
えもと・ときお●1989年、東京都生まれ。2003年、映画『Jam Films Sすべり台』で俳優デビュー。ドラマ『初恋芸人』『増山超能力師事務所』、映画『超高速!参勤交代』『聖の青春』『彼女の人生は間違いじゃない』などで独特の存在感を発揮している。舞台『関数ドミノ』『流山ブルーバード』の公演が待機。ドラマ『愛してたって、秘密はある。』に出演中。
スタイリング=矢野恵美子 衣裳協力=CLOUDY HS TEE (リネンTシャツ) 9504円、FOLKSY SHIRTS COAT (シャツコート)1万9980円(CURLY/TheWeft TEL03-6450-5905)どちらも税別価格
パンツはスタイリスト私物
開盟学園高等学校・学園生活支援部、通称「スケット団」の活躍を描いた学園コメディ。リーダーのボッスン、元不良の武闘派ヤンキー娘・ヒメコ、クールな情報屋・スイッチの3人が、学校内のヘンテコな依頼を解決するべく、奔走する。2010年、小学館漫画賞少年向け部門受賞。アニメ化もされた人気作。
舞台『チック』
原作/ヴォルフガング・ヘルンドルフ 上演台本/ロベルト・コアル 翻訳・演出/小山ゆうな 出演/柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良 8月13日(日)~27日(日) シアタートラム ほか兵庫公演あり
●14歳の冴えない少年マイクは、ケンカばかりの両親と退屈な学校生活にうんざりしていた。転校生のチックは、ロシアからの移民で風変わりな問題児。二人は、チックが盗み出したオンボロ車に乗り込み、ひと夏の旅に出る。世界中で愛されている児童文学を舞台化。本国ドイツでは今も上演を重ねる話題作。
※『チック』の映画版『50年後のボクたちは』は、9月16日(土)より全国順次公開。