「遺伝=運命」はもう古い!?  食事、仕事、人間関係、環境……何気ない日常で遺伝子は変えられる!?

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公開日:2017/8/2

『遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実』(シャロン・モレアム:著、中里京子:訳/ダイヤモンド社)

 理科あるいは生物の授業でメンデルの遺伝の法則を習ったことのある人は少なくないはずだ。ある特定の性質が1つの世代から次の世代へ引き継がれること。そして遺伝子には優性のものと劣性のものがあり、その組み合わせによってある特定の性質が表れること。

 この祖先からの贈り物は容姿や特定の病気のかかりやすさまで、人生のさまざま場面で影響を及ぼす。私たちはそれを「遺伝」と呼び、自分の運命を決めるものとして捉えてきた。

 しかし2000年代以降ゲノム解析や研究の進歩に伴い、事態はどうやらそんな単純なものではないらしいということがわかってきた。祖先から受け継いだ遺伝子のすべてが現役バリバリで働いているとは限らないからだ。遺伝子にはオン・オフのスイッチがあって、そのスイッチは個人の置かれた環境によって切り替わる。また後天的に遺伝子に変異が起こることもありうる。いわば私たちの運命は常に変わり続けているのだ。

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 環境の変化などにより遺伝子がどのように振る舞いを変えるのか。それを明らかにする学問を「エピジェネティクス」というらしい。これまでの医学的な常識を覆す可能性を秘める最先端の科学だ。同じ遺伝病でも人によって症状の現れ方が違うこと。遺伝子的には完璧なコピーであるはずの一卵性双子に見られる相違点。そういったメンデルの遺伝の法則では説明がつかない現象に解答が与えられようとしている。

 そんな神秘的でエキサイティングな遺伝子の世界に私たちを誘うのが本書『遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実』(シャロン・モレアム:著、中里京子:訳/ダイヤモンド社)だ。

 体の設計図とも呼ばれる遺伝子は、塩基といわれる約30億個の文字でできている。この文字の配列の微妙な違いが私たち一人ひとりの個性を形作っている。

 著者によれば、遺伝的に平均的な人間などこの世には存在しないという。ありとあらゆる人が遺伝子に何らかの突然変異を抱えている。

遺伝的な基準値を作成する目的で「健康である」とみなした人たちすべての遺伝子配列に、それまで健康的だと考えられていた配列と一致しない何らかのタイプの変異が必ず見つかったのだ。

 こうした遺伝子の突然変異はときに「個性」では片付けられないような深刻な事態をもたらすこともある。いわゆる遺伝子疾患や先天性疾患といわれるものだ。たった1文字の違いでも、変異が起こった場所によっては身体の機能が正常に働かなくなってしまう。

 ひと目でわかるような異常が起こらなかったとしても、ある種の病気へのかかりやすさや薬物・アルコールの代謝速度など遺伝子の変異は身体のあちこちに影響を及ぼす。遺伝子レベルで言えば、私たちの中に1人として同じ人間はいないのだ。万人に合うダイエットや健康法がないのもこれで説明できる。

 この変異は両親から受け継いだものかもしれないし、自分の代で突然起こったものかもしれない。ついでに言うと、両親からある特定の遺伝子を引き継いだからといってそれが両親の代と同じように発現するかどうかはわからない。私たちが置かれた環境によっては、両親の身の上に起こったのとは違った形でその遺伝子が影響してくる可能性もあるからだ。

 本書を通して見えてくるのは、遺伝子というものの不確かさだ。食事やストレスなどの影響を受けて、私たちの遺伝子はこの瞬間も変わり続けている。そして環境によって引き起こされた遺伝子の変化は、次の世代に引き継がれることもわかっている。

 プラスの影響もマイナスの影響も、私たちの日々の行動の結果は遺伝子にしっかりと刻み込まれる。遺伝とは絶対的なものではなく、あくまでも変えられる運命なのだ。私たちが両親や祖先から受け継いだものを知り、何らかのアクションを起こすこと。それが私たちの未来を切り開く鍵になる。

文=遠野莉子