「共謀罪を可決した」本当の理由とは?

政治

公開日:2017/8/2

『共謀罪の何が問題か』(高山佳奈子/岩波書店)

 2017年6月15日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」、いわゆる「共謀罪」が国会で可決された。この法律の危険性は、かねてから叫ばれていた。「節税の相談が脱税の計画とみなされ、逮捕される」「上司がムカつくから一緒に殴ろうぜ、という冗談を交わすだけで罪になる」など、耳を疑う適用例が挙げられ、それを信じてしまう国民も少なからずいただろう。正直申し上げると、私は共謀罪には全く関心がなく、国会やデモ隊を煽り立てるメディアにうんざりだった。「共謀罪なんて私の生活には関係ない」と思っていた。しかしそれはどうやら間違いらしい。『共謀罪の何が問題か』(高山佳奈子/岩波書店)を読めば、共謀罪は私たちの生活に大いに関係あることが分かる。

■「テロ対策のため」というのは大ウソ

 メディアが報じる国会の模様を見る限り、与党は共謀罪を可決させるため、ずいぶん必死こいていた。本書によると、必死こいて可決させるため、与党はいくつかウソをついていたという。まず、テロ対策のためというのがウソ。2001年の同時多発テロの前後を通じて、テロ行為を取り締まる国際条約が世界の主要国で結ばれた。日本は国連安保理決議や国際条約に従い、その都度、テロ対策の国内立法を済ませてきた。割愛するが、本書ではそのテロ対策に関する法律がいくつか紹介されている。さらに「テロリズム」に関する定義も存在する。共謀罪の別名、「テロ等準備罪」は、すでに存在していたのだ。著者の高山佳奈子氏によれば、現行法に穴はないという。また、2020年東京五輪のためというのもウソ。2008年から2013年まで、高山氏は文部科学省の委託事業で、スポーツ仲裁やドーピング対策の検討に従事していた。このとき、共謀罪の話は一切なかったという。文部科学省は五輪全体を担当しており、いくら法務省に出入りしていなかったといえど、共謀罪について一切ふれないのはおかしい。つまり取ってつけた口実にすぎないのだ。本書では他にもウソが挙げられているのだが、本当の問題は、なぜ国民にウソをついてまで共謀罪を導入したかだ。

■なぜ共謀罪を可決する必要があったのか

 共謀罪を強行可決した理由をズバリ書くと、「警察の威厳を保持するため」だそうだ。政府の統計を見ると、犯罪の認知件数は毎年のように減少し、戦後最低記録を更新中だ。暴力団関係者の数とその犯罪件数も明白な減少傾向を続けている。ところが、犯罪認知件数がピークだった2002年と比べ、その半分の数になった2015年、警察職員の数は約2万人増加している。警察職員が増えた時期と重なるように、今まで摘発の対象になっていなかった行為の摘発を始めているという。たとえば「クラブ」の一斉摘発、女性タレント2名が電車の線路に立ち入った行為、右翼団体メンバーの運転免許取り消し処分。以前までは取り締まり対象ではなかった行為が、犯罪の激減時と重なるように、右も左も関係なく、警察は実績を上げるために摘発を始めたそうだ。日本の治安がますます良くなって、それに困る組織が暴力団以外にいるなんて、それがまさか……。共謀罪が施行されると、捜査権限が拡大されることは間違いない。冒頭で述べた「節税の相談が~」というのもあながち間違いではないかもしれない。私たちが本当に気を付けるべき組織は身近にいるのかもしれない。

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 乱暴に言うならば、私は本書を読んでムカついた。結局のところ、共謀罪は国民のためではない。ごく一部の、美味しい汁を吸いたい人たちのためだけに制定された法律なのだろう。共謀罪を強行可決した者こそ、共謀罪にあたるのではないだろうか。この法律には、日本政府の闇がつまっている。

文=いのうえゆきひろ