打ち合わせは「雑談」「脱線」「混沌」でOK! 博報堂の「仕事」がすごい理由とは?
更新日:2017/8/29
言わずと知れた大企業「博報堂」。さながら社員は、クリエイターでありながら職人でもあり、ビジネス感覚も優れている……天が二物も三物も与えたすごい人々の集まりだと私は思っていた。
その博報堂が、自社の「打ち合わせ」の仕組みを、惜しげもなく紹介したのが『博報堂のすごい打ち合わせ』(博報堂ブランド・イノベーションデザイン局/SBクリエイティブ)だ。本書を読んで、博報堂の「すごさ」は、「個人」だけではなく、「発想を生み出す仕組み」が「すごい」のだと実感した。
博報堂の打ち合わせは、「雑談が多い」そうだ。「脱線」することもしばしばあり、そして内容が「混沌」としてもOKだし、「常識的なこと」や「○○すべき論」を話す必要もないとか。一見、「優れたアイデアを生み出す現場とはほど遠い」ようにさえ思う。だが、「非効率で、無駄が多い」「意味不明」な打ち合わせが、博報堂の「すごさ」を支えていた。
博報堂式打ち合わせのプロセスは4つ。
プロセス1「共有」
目的やゴール、進め方など、打ち合わせの前提となる情報を参加メンバー内で確認する
プロセス2「拡散」
参加メンバーが事前に準備した案を基に、議論を行う。あらゆる可能性を検証し、アイデアをすべて出し尽くす
プロセス3「収束」
散らばっているアイデアを紐解きながら、課題に沿って取捨選択し、いくつかの方向性(関連性があるまとまり)に整理していく
プロセス4「統一」
整理し、方向付けしたアイデアの中から結論を出して、メンバーの意思統一を図る
以上が、博報堂で行われる打ち合わせのステップなのだが、重要視しているのは「拡散」だという。「拡散」の段階で「あらゆる可能性を洗い出す」ことで、「最高の結論」を導き出せるそうだ。
この「拡散」の時に「雑談」や「脱線」が行われる。打ち合わせにおいて最もタブーなのは、「予定調和になること」。常識にとらわれない、自由な思考のために、「拡散」のプロセスは「混沌」になっていいのである。
ここで一つ。「それって、博報堂の社員だからできるスゴ技なんじゃないの?」と思った方もいるのではないだろうか(私はここまで読んだ際、そう思った。「ある一定以上の能力を持った集団だからこそ成立する方法論」なのではないかと……)。
しかし、その懸念も吹き飛ぶくらいに、博報堂の打ち合わせは、しっかりとシステム化されていた。よって、その仕組みを知り、理解し、チームで共有していれば、どこでも誰にでも再現可能なのである。
本書はそのための方法を、具体的な例を挙げながら紹介している。
「雑談」一つにしても、「本題とはまったく関係がない会話」では意味がない。雑談には様々な効果があるのだが、一つに「本音で話すための準備運動」や「年次や役職に関係なく自由に発言できる場にする」という「目的」がある。また、「脱線」することで得られる効果があるからこそ、博報堂の打ち合わせは「混沌」とするのだ。
本書では、そういった「って言われても、どうやるの?」という疑問を払拭するため、「目的」と「効果」、そして「方法」がしっかりと段階を踏んで書かれている。また、打ち合わせが行き詰まってしまった時の「ブレイクスルー」や、アイデアを量産できる「ひとりブレスト法」、打ち合わせを仕切るリーダーの心得など、とにかく「具体的」で「すぐに実践できる」方法論が紹介されていた。
「すごい打ち合わせ」だけではなく、「発想法」も参考になる本書は、ともすれば情報過多で雑多になりそうな内容なのに(時々、言いたいことを詰め過ぎて全体的に薄っぺらくなっている類書を見かけるが)、体系立っていたために、すんなりと頭に入った。本書を読んだだけでも、いかに博報堂の「打ち合わせ・発想法」が「仕組み」として確立されているかが、よく分かる。そんな門外不出のルールを大公開してくれた博報堂……太っ腹だなぁ。
文=雨野裾