なぜ、SNSで「さりげない自慢=匂わせ」をせずにはいられないのか?

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更新日:2017/8/29

『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』(榎本博明/サンマーク出版)

 一人でいることが好きな私は、いつでも人とつながるSNSがとても苦手である。しかし、一度始めたFacebookはここだけでつながっている友人や仕事の関係者もいて、なかなかやめられずにいる。最近、イベントの企画・運営を生業とする仲のいい友人が、自分が携わったという有名芸能人が登場するイベントの動画をタイムラインで送ってきた。それを見た人は「すごい!」の大合唱だ。とりあえず私も「いいね」でその流れにのっかる。だが、心の中はもやもやしている。

「ただの自慢?」と思わされるタイムラインに悩まされていたとき、見つけたのが『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』(榎本博明/サンマーク出版)だ。心理学を研究する著者が、人から少しでもよく見られたいという気持ちが先走った結果、人をイラッとさせてしまう「匂わせ」、つまりつい自慢してしまうメカニズムを解説。またその対処法を教えてくれる。

 「匂わせ」自体は悪いことではないという。例えば、就活や婚活で自分の評価を高めるためのうまい「匂わせ」は有効だ。問題は不必要な場面でやってしまう過剰な「匂わせ」。能力がないのにデキることを匂わせるのは当然煙たがられる。また、能力があっても不適切にそれを匂わせてしまうのもNG。「できることを鼻にかけている」「見下している」と受け取られてしまうからだ。いずれにしても、人望のない人がやりがちなわかりやすい行為のようだ。今回問題の動画を送ってきた彼女は、私の知る限り能力がないわけではないと思う。それにたくさん「いいね」をもらえているのを見る限り人望がないとも言いがたい。

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 さらに、「匂わせ」を動機の点で細かく見ていくと、うまくできなかったときのために経験の乏しさなどを先にアピールしておく「ハンディ匂わせ」や、過剰な自虐ネタで励まされるのを待つ「私、かわいそう匂わせ」、自分を大きく見せたがる「知ってる匂わせ」などがあるらしい。こうして整理して説明されると、なんとまぁ周囲に「匂わせ」があふれていることだろう。と思いつつ、身に覚えもあったりしてちょっと恥ずかしくなる。今回の件に当てはまりそうだったのは、有名人と個人的に話をするほど親しい間柄であることをアピールする「すごい人と友だち匂わせ」。これには「身近な人物の優れた属性や業績の栄光に浴して自己評価が上昇する」という心理メカニズムが働いているらしい。“虎の威を借りる”ってやつだ。…いや、やっぱりこれもなんだかしっくりこない。どちらかと言えばミーハーな雰囲気が漂うメッセージだった。彼女はその芸能人をちゃんと自分と切り離して説明していた。

 謙虚な姿勢。これがあれば、そもそも人を嫌な気持ちにさせる「匂わせ」にはならないという。それでは、なぜ私は彼女の投稿に悶々としているのか。本書はさらに説く。自分のコンプレックスやフラストレーションから何気ない言葉を自慢だと捉えてしまう「匂わせ」過敏症候群と呼ばれる人々がいることを。その原因のひとつは人と比べて自分の幸せをはかる「比較意識」。特に、共通点のある身近な友人に対してこの心理が働きやすいとされる。ここまで暴かれると私も認めざるをえない。彼女にそれほど他意はなく、ただ嬉しくて興奮した気持ちを知人と共有したかっただけではないか。

 こうして悶々としていた気持ちは自分に原因があるとわかり、さらに悶々とする…。が、ヘコむことはない。「匂わせ」が気になるかどうかは、自分の心の状態をはかるバロメーターだと考えればいいと、本書は私を含む「匂わせ」過敏症候群の人々を励ましてくれる。また、イラッとしすぎだと感じたときは、やれ「上から目線だ」、やれ「マウンティングだ」と言外の言葉まで勝手に拾わず、本人の言う事実だけに耳を傾ければいいといったアドバイスも。

 「匂わせ」で悶々とした気持ちを抱えている人は、ぜひ本書を手にとってみてほしい。その原因をさまざまな角度から探ることができる。相手に原因があるのか、自分に原因があるのか、もしくは互いに何かストレスを抱えているのか。新鮮で健康的な考え方を提案してくれるだろう。そして、何より自分の心の平安を取り戻すまでFacebookは見ないでおこうと考える私であった。

文=林らいみ