妻から夫へ、夫から妻へと“課題図書”が指定されるたび険悪に…「離婚」を考えた2人の末路は?
更新日:2017/8/29
「交換日記」に思い出はないだろうか。今と違ってパソコンや携帯電話もなく、メールやメッセンジャー、LINEも存在していなかった頃、友達や彼氏彼女と日記のやりとりをしていた人も少なからずいるだろう。毎日顔を合わせ、いつでも話ができる関係であっても、改めて相手に向けて“文章を書く”と、普段は口にしないような思いもかけないことを書いてしまったりすることがある。そして、それによって、知っているようで意外と相手を知らなかったことに気づくことも。リアルタイムでのおしゃべりと日記を通じたやりとり、それらは似て非なるものであり、そのふたつのパラレルなコミュニケーションを通して相手の心の奥底を垣間見ることができる場合もある。
『読書で離婚を考えた。』(円城塔+田辺青蛙/幻冬舎)は、芥川賞作家の夫、円城塔と、ホラー作家の妻、田辺青蛙が交互に選んだ「課題図書」を勧めあい、提案された方が読書感想文(エッセイ)を書くという夫婦間読書リレーだ。目的は「相互理解を進めること」。課題図書に関する内容紹介やエッセイが、互いの近況報告や常日頃、相手に対して考えていることなどと共に、往復書簡の形でやりとりされている。
■相互理解のために本を勧めあった格闘の軌跡
「物書き」「本読み」という共通点がありながら、理路整然としてきっちり物事を進める夫と、思いつきで行動する感覚派の妻が各々手にする本は、ほとんどかぶることがない。読書観もまったく異なり、読書リレーは回を増すごとに困難を極めていく。妻からダイエット中の夫へ『板谷式つまみ食いダイエット』でジャブがはいると、レシピ通りにせず謎の料理を創作する妻へ夫は『台所のおと』で応酬。さらに、夫は手順通りに物事を進めることが苦手な妻を『立体折り紙アート』で悩ませ、読書リレーの最終回には妻は夫に「格闘」の締めくくりにふさわしい『バトル・ロワイアル』を突きつける……双方一歩も譲ることがない。「相互理解」が目的だったはずが、ハラハラして読んでいられない展開に…。
■結論 読書で夫婦はわかりあえない?
この読書リレーで紹介される39冊のジャンルは、作家夫婦だけに多岐にわたる。そのラインナップもさることながら本書では、妻と夫の持って生まれた性格由来の「物を見る目」や「温度感」の違いなど、かみ合わないながらもその実、ふたりともそれを楽しんでいるということが伝わってくる。“わかりあっていると思っていたのにそうではなかった”と失望する夫婦より、最初から「わかりあえていない」と腹をくくって相手と接する方が、長続きしそうだ。これからも、円城・田辺夫妻には今まで通りずれたまま、ともに人生を歩んでいってほしい。
文=銀 璃子