女性アレルギーの残念イケメン男子が、初恋の想いをのせて夜空に花火を打ち上げる! 福田和代著『空に咲く恋』
更新日:2017/11/11
やればできるというけれど、たいていの人はその「やる」ができないわけで、努力するにもそれなりに才能がいる。だけど、自分ってだめだなあ、甘えてるなあ、なんて思いながら、それでも自分なりの一歩を重ねていくしかないのだ。……なんてことを思った小説『空に咲く恋』(福田和代/文藝春秋)。イケメンだけど女性アレルギーなヘタレ男子が花火と女性に恋をする、ひと夏の青春小説だ。
主人公の由紀(よしき)はかなりの残念男子。女性に触れると失神するという重度のアレルギーには同情するが、彼が逃げ出す相手は女性だけではない。就職もせず、実家の花火屋を継ぎもせず、放浪の末たどりついた新潟で農作業の手伝いをしながらなんとなく生き、実家に2年近くも連絡を入れないまま。自分から誰かを頼ることはできないのに、差し出された手にはとことん甘えてしまう。本人も自覚するとおり、アレルギー云々以前に改善すべき点が多すぎる。読者のなかにはあまりのヘタレっぷりに、最初はイライラしてしまう人もいるかもしれない。
だけど彼の持つ甘えや弱さは、特別なものだろうか。自信満々に生きている人なんてほとんどいない。女性アレルギーほど極端じゃなくても、たとえば人見知りとか、自分の容姿に自信がないとか、頑張りたくても障壁になるコンプレックスは、誰しも多かれ少なかれ持っているはずだ。どんな理由があろうと、頑張らなきゃどこへもたどりつけないことくらいわかっている。それでもうっかり気を抜くと逃げ出してしまいそうになる。「どうせ自分には無理なんだ」と言い訳してしまう。そんな弱さに心当たりはないだろうか?
由紀を変えるのは、一人の女性との出会いだ。実家の商売敵で、花火職人をめざすぼたん。由紀が彼女に恋をするのは、ただかわいいからでも、彼女にだけアレルギーが発症しなかったからでもない。夢に向かって全力で、自分に言い訳しない彼女の姿が、夜空に打ちあがる花火と同じくらい眩しくて美しいからだ。ぼたんは、由紀のことだけを見てなんかいない。彼女の瞳に映るためには、アレルギーを起こしている場合じゃない。自分を変えようと少しずつ動き出した由紀は、自分なんかにとてもできないと思い込んでいた家業の花火職人をめざしはじめる。
ところが、ようやくぼたんに肩を並べられるかもしれない……と思ったそのとき、突然、ぼたんに対してもアレルギーを発症してしまう。理由はいろいろあるだろうが、これは由紀自身が自分に期待しはじめたからじゃないだろうか。
「自分には何もできない」と思っているときより、「もしかしたら自分にも何かできるかもしれない」と希望を抱いたときのほうが、踏み出す一歩に対するおそれは大きくなる。だけどその一歩を超えたとき、はじめて手に入れられる自信が未来を描くための大切な一色になる。情けなくても、失敗を重ねても、自分だけの色で夜空を彩ろうとする由紀の一歩は、盛大に打ちあがる花火のように、読者の心を強く打つのだ。
由紀の成長とともに、読む者も知らず知らず一歩を踏み出す勇気をもらえる本作は、自分に自信のない人にこそ読んでほしい物語だ。
文=立花もも