アラサー男たちが直面する「地獄」。男の友情も下手にこじらせると泥沼!? 水城せとな最新作『世界で一番、俺が◯◯』がリアルすぎる…
更新日:2017/9/11
落ち込む日もあるけれど、いつか「何者」になれそうな気持ちをまだまだ抱いていた20代。でも、男たちは30代を目前にして気づく。自分たちがぬるま湯のなかで思考停止に陥っていたことに……。
『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などで知られるマンガ家・水城せとなの初の青年誌連載『世界で一番、俺が◯◯』は、性格・境遇のまったく異なる幼馴染のアラサー男性3人が、謎のエージェント773(ナナミ)の提案により、「300日後に、誰が一番不幸か」を競うゲームに身を投じるというもの。ものすごく不幸というわけではないが、どことなく満たされないものを抱いていた“高額納税者にして人間不信”柊吾、“世渡り上手にしてニート”アッシュ、“癒し系にしてブラック企業勤務”たろの3人は、「勝者はどんな願いも叶えてもらえる」という773の言葉に心ひかれて、ゲームへの参加を決める。ちなみにどれほど不幸かどうかは、773が身体に触れることで測定される「絶望指数=Despair Quotient(DQ)」によって判断される。
「自分がまわりに比べてどうか」「こういうときに幸せを感じる」といったことは日々なんとなく思っているにしても、いざ「もっと不幸になれ」と言われると、何をどうしていいかわからないのが人間というもの。「セカオレ」の3人も、ゲームへの参加を決めたところまではよかったけれど、かなえてほしい願いのイメージも定まらず、“年をとってもくだらない話をしあえる幼馴染3人”という関係を維持するバイアスに絡めとられてしまう。それは決して悪いことではないけれど、ある種の怠惰であることは間違いない。適齢期・出産時期・それらとキャリアとの兼ね合いなど“リミット”のある選択を迫られるアラサー女性の苦悩とは、また別の地獄にはまっているのがアラサー男性なのだ。
柊吾、アッシュ、たろの3人も性格や境遇は違うが、いや、違うからこそ、それぞれの「ポジション」を変えることを一番のタブーだと思っている。男同士にとって「お前性格いいし誰にも嫌われないのに、ほんとモテないよなー」「あんなにモテモテだったのにフリーターになっちゃって~」といったディスりあいは、じゃれ合いということで許されるけれど、構築された群れの総合的なバランスを変えることは許されないのだ。そして「誰かが不幸になること」は、関係のバランスが変わることでもある。ゆえにゲーム序盤の3人はきわめて消極的だ。
物語が大きく動き出すのは8月23日に発売された3巻。「変わらない幼馴染3人」を維持していた彼らのなかで、アッシュに変化が訪れる。773とは別のエージェント・441(ヨシヒト)と遭遇し、彼に「あんたは負け組で終わる」と宣言されたことで、自分の「他の2人に不幸になってほしくない」という考えの裏に、「他の2人が変わってしまうことで自分の立場が維持できなくなる」という臆病な気持ちが隠れていたことに気づく。これまでの自分がやらないようなことをやってでも、そして他の2人を傷つけてでも、ゲームに勝って「何者」かになることを決意したアッシュが始めたのは、たろと、たろが以前から淡い恋心を抱いている弁当屋の店員・ふみが交際に至るよう手助けをすること。そしてその一方で、441の力を借りながら、自身もふみに接近していく。一体アッシュの目的は……?
次々と目が離せない出来事の起きる3巻だが、その続きが掲載された「イブニング」18号(8月22日発売)では、さらに衝撃的な展開が…。はたして、ゲームが終わったとき、3人はどうなっているのか? ゲームが始まる前のように楽しく笑い合えるのか?
これまで「恋愛」を通じて他者や世界との関係の変化の過程を描いてきた水城が、今度は「自分を変える」ことを通じて他者や世界との関係が変わっていく怖さを描いた「セカオレ」。「毎日ちょっとした不満はあるけどそこそこ楽しく暮らしている」というあなたにこそ、響くかもしれませんよ。
文=平松梨沙