軍隊のような看護学校、無人の病室からのナースコール…。元ナースが語る、リアルな看護の現場
更新日:2017/9/11
大抵の方が、一度はお世話になったことがあるであろうナース(看護師)。テキパキと仕事をこなし、病気や怪我で不安になっている患者の心に寄り添ってくれる心強い存在だ。筆者も初めて胃カメラ検査を受けた時など、苦しい時に励ましてくれたナースは、「白衣の天使」そのものだった。その一方で、看護は人の死に立ち会うこともある過酷な仕事。そんな看護の現場のリアルは、想像をはるかに超えるものだった。
『ナースは今日も眠れない!』(田中ひろみ/サンマーク出版)では、看護学校を卒業してナースとして働いた経験を持つ著者が、看護の現場を赤裸々かつコミカルに描いている。手に職をつけるためにナースの道を選んだ著者だが、看護学校に入学したところから、とてつもない試練の連続だった。
■軍隊のような看護学校生活
制服こそないものの、紺のブレザーに白シャツ、スカートが必須だった看護学校。毎日出欠を確認され、熱があっても休めなかったそう。なぜなら、学校の隣に病院があるから。キラキラした大学生活とは正反対の、自由のないハードな日々だった。簡単になれると思ってナースを選んだ著者に、早くも暗雲が立ちこめる…。
■東京の有名病院に就職したものの
大阪に住んでいた著者だが、東京の絵の学校に通いたいという理由で、東京の病院に就職。「実習でラクだったから」消化器内科を希望して配属されたのだが、そこは「魔の病棟」だった。新人の教育を担当する教育主任の山田さんは、顔を見ただけでも怖そうな女性。事あるごとに叱られて、委縮していき、できることもできなくなってしまう。そして、突然キレる黒上さんという先輩ナースには、いきなり消しゴムを投げつけられたことも。
さらにつらいのが、病院の寮だ。当時は2人部屋で、8畳に2段ベッドが置いてあったそう。4つ年上の先輩と同室になったのだが、まったく気が合わず、ほぼ会話もなかった。部屋には先輩のものが溢れ、2段ベッドの上は天井が低くて頭がぶつかるほど。クーラーがないため暑い空気が上にこもり、寝苦しい日も多かったという。そして何より、仕事から帰って疲れて寝ていても、お休みの先輩がテレビを観ていれば眠ることもできない。仕事がハードなうえに、部屋でも休めないとは、かなり過酷な状況だ。
■病院で起こる不思議な現象
当時の病院では、深夜勤務の1時と3時に病室の見回りがあった。消灯後で暗いため、懐中電灯を持って病室を確認して戻ると、ある病室からナースコールが。その部屋は、患者さんが亡くなり無人となっていた。懐中電灯を持って恐る恐る確認に行くと…やはり無人。しかしその後、その亡くなった患者さんが使っていた心電図モニターが突然動き出す。時計を見ると、患者さんが亡くなった時間。このような体験から、著者は、「人が亡くなってもしばらくは意識のようなものが残っているような気がする」と語る。
ハードな毎日を送りつつも、大好きな患者さんに励まされたり、同僚と励まし合ったりして、ナースとして働いていた著者。3年働くと楽しくなるかもしれないと思いつつも、それを待たずに辞める決心をする。ある程度お金が貯まったので、当初の夢であったイラストレーターの学校に通うことにしたのだ。バイトをしても貧乏で大変だったが、幸せな毎日だった。ナース時代に鍛えられた精神力で、大変な状況でも頑張れた。
自身が乳がんを患い治療を受けた時には、改めてナースという仕事の素晴らしさを実感する。いまさらナースには戻れないけれど、素晴らしい仕事。どれだけ大変な思いをしても、人に必要とされ、役に立てることは、価値のあることなのだ。命の現場は、綺麗ごとでは済まされないことばかり。著者は「愚痴やつらかったことばかり書いてしまった」と述べているが、ナースという仕事に対するリスペクトや愛が伝わってくる一冊だ。
文=松澤友子