自分の世界から飛び出すきっかけになれたら――第3回「次にくるマンガ大賞」Webマンガ部門4位!『サトコとナダ』ユペチカさんインタビュー【前編】

マンガ

公開日:2017/8/24

『サトコとナダ』(ユペチカ/星海社)

 2017年1月、Twitterで毎日4コママンガを更新している「ツイ4(よん)」で、ちょっと変わった作品が連載をスタートした。タイトルは『サトコとナダ』。

 主人公の大学生・サトコが留学先のアメリカでサウジアラビア人のナダと出会い、共同生活をしていく姿をコミカルに描いた本作品。日本人とムスリムによる異文化交流には、ギャップへの驚きだけでなく、人間らしく生きることへの本質にハッと心を動かされることがある。

 作者のユペチカさんはどのような経緯から『サトコとナダ』(ユペチカ/星海社)を描き始めたのか。今回が初インタビューとぎこちなく語る言葉からは、意外な制作秘話が隠されていた。

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――ユペチカさんがマンガを描き始めたのはいつごろからですか?

ユペチカ: 私自身、小さいころから絵を描くのがすごく好きだったんですけど、マンガを描き始めたのは高校3年生からです。ただ、マンガ家を目指していたわけではなくて、仲間内で共有して楽しむような感じで。当時はオリジナルじゃなくて、二次創作を描いていました。

――二次創作はどんなテーマで描いていらしたんですか?

ユペチカ: えっ、これ言ってもいいのかな? 『ヘタリア』なんですよ。

――ちなみに推しは……?

ユペチカ: インドさんが好きなんです。もう全部かっこいいんですよ……って、こんな話でいいんですか?

――(笑)。失礼しました。それから『サトコとナダ』を描くことになった経緯は?

ユペチカ: 先ほどお話ししたような感じで描いたマンガを仲間内で発表していたのですが、その中にはオリジナルを描く方もいたんです。だから、私も何かを描きたいなと思って始めたのが『サトコとナダ』でした。

――それをご覧になった編集者さんがお声を掛けたんですね。

ユペチカ: はい。私のマンガが注目されるなんて思ってもなかったので、初めてお話をいただいたときは「詐欺かな?」って思ってました(笑)。

――(笑)。逆に編集担当の林さんにお聞きしたいのですが、お声掛けしたポイントは?

林: 純粋に「良い作品だな」と思ったんです。たまたまTwitterで見つけたのですが、一日に何度も読み返しちゃうくらいで。こんな体験は初めてだったんですよ。編集長にも読んでもらったら、やっぱり一日に何回も見たと言ってくれて、GOサインが出たんです。

――連載化までにそのような経緯があったんですね。では、アイデアが生まれた背景についてはいかがですか?

ユペチカ: 私自身がありがたいことにアメリカで勉強する機会に恵まれまして。そのときに初めてイスラム圏の友達ができて、カルチャーショックを受けたことがきっかけでした。まずは何となく紹介したいな、みんなにも知ってほしいな、と思っていたのですが、いざオリジナルを考えたときに、ふわっとナダやサトコのキャラクターが思い浮かんで。それで彼女たちのマンガを描き始めました。


――実際にナダのようなルームメイトに出会ったんですか?

ユペチカ: ルームメイトではないですね。ナダのモデルは5人くらいいて、それぞれの特徴やエピソードを集めて作り上げた感じです。

――舞台になっているのはアメリカのどこ、という設定は考えていますか?

ユペチカ: 描いているのは架空の街ですけど、モデルとしては西海岸かなあって思ってます。サンフランシスコみたいなリベラル寄りで、サトコとナダが暮らしていそうな地域をイメージしています。

――ユペチカさんも実際にイスラム圏の方と一緒の時間を過ごしてみて、いろいろとイメージのギャップが?

ユペチカ: 違いましたね。日本の方はわりと謙虚だとか、控えめなのが良いとされる傾向が多いと思うんですけど、あちらは自己主張がハッキリしてて、私が私がみたいな(笑)。逆に言えば、思っていることをすべてその場で言ってくれるので、気を遣う必要がまったくなかったですね。

――サトコはユペチカさんの視点でもある?

ユペチカ: もちろん私がサトコを描いているので、私の主観が入ってしまうことは多々あるのですが、常にサトコ自身の目線を描くということは意識してますね。

林: 実際、ちょっと似てるなって思いますよ(笑)。

ユペチカ: えー、そうですか? 私と違ってサトコはすごく良い子だから……。

――日本で過ごしていると、イスラム圏の方と仲良くなる機会って正直なかなか少ないので、貴重な体験をされていると思いました。

ユペチカ: そうですね、私もたまたまでしたから。これは単行本の描き下ろしで描いたことですが、ナダも彼女自身の世界から飛び出したいと考えていて、たまたまサトコと出会ったっていう感覚で描いています。『サトコとナダ』は、サトコの成長物語であると同時に、ナダの成長物語にもなっていると嬉しいなって思ってます。

――お話を考えていくうえで描きたいテーマはありますか?

ユペチカ: そうですね。『サトコとナダ』には、典型的なアメリカ人のミラクルや日系のケビン、それに他のムスリム圏のキャラクターも登場しますが、世界には自分とは違う生き方や文化を持った人たちがいるという、当たり前だけど大切なことを知ってほしいなという気持ちはあります。

――たしかに物語の起点こそイスラム文化とのギャップですが、連載が進むうちにイスラムだけじゃなくて海外の文化全般を描いているように感じます。

ユペチカ: 日本にいると遠い世界のように感じるかもしれないけれど、そういった人たちとも仲良くなれると思うんです。仏教徒とムスリム、クリスチャンっていうよりも、あなたはこうだよね、私はこう、でも友達だよねっていう世界が描けたらいいなあって。


――違いを認めて尊重し合うということですね。

ユペチカ: これは個人的な意見なんですけど、友達って同じ考えの人としかなれないって感じがちだけど、違う考えの人とも友達になれるし一緒に暮らせるって思っていて。だから描くときに考えていることは、日本人とムスリムの女の子じゃなくってサトコとナダの物語を描くっていうことですね。

――第28話「あなた」でサトコはナダに「私はナダ あなたを知りたいの」というメッセージを送りますが、まさにユペチカさんの伝えたいテーマも集約されていそうですね。

ユペチカ: そうですね。それが一番この作品で思っていることです。ナダを知ってほしい、その人を知ってほしいなって。

後編へ続く(25日配信)

取材・文=小松良介