小室哲哉と浅倉大介の師弟ユニット「PANDORA」がアイドル音楽市場をひっくり返す?

音楽

公開日:2017/9/3


■小室哲哉を“先生”と慕う浅倉大介

小室哲哉さんと浅倉大介さんが新ユニット「PANDORA」の結成を発表した。1980年代から現在に至るまで、ミュージシャン、音楽プロデューサーとして話題に事欠かないふたりだが、実は“師弟関係”にあるということをご存知の方はあまり多くないかもしれない。

1987年、小室さんは高校時代からYAMAHAでシンセサイザー開発に関わり注目されていた浅倉さんをマニピュレーター、キーボーディストとして自らの超人気ユニット「TM NETWORK」にサポートミュージシャンとして招いた。この関係は浅倉さんが「access」でデビューする前の1987年から1992年まで続いている。

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浅倉さんは今も小室さんを“先生”と呼んでいるが、まさに小室さんは浅倉さんをプロミュージシャンの世界に招き、飛躍のきっかけを作ってくれた恩人というわけだ。

そんなふたりが新たに結成したPANDORA。いったいどのような音楽性を指向しているのだろうか。PANDORAのオフィシャルサイト上にふたりはコメントを寄せている。

まずは尊敬する先生(小室哲哉)とのユニットです、ボク自身すごく嬉しいし、 とても楽しみです。先生の考える、これまで、今、これからのデジタルミュージック、 音楽シーンへのアプローチを、1つでも多くこのPANDORAで実現させたいと思います

と浅倉さんは小室さんへの敬意とPANDORAへの意欲を表しつつ、小室さんもそれに呼応するように

今の音楽シーンはジャンルがどうとか、形態がどうとか関係ない状況にあります。テクノロジーの進化により環境に合わせて、データを創ることが可能になりました。浅倉君は最高のシンセサイザープログラマーであり、キーボーディスト。僕の文科系のイメージを理科系の彼が音楽という形にする。作業は少しのコンピューターがあればどこでもできる。今回のユニットPANDORAの概念は“箱”です。その扉を開けて、いろいろなもの、音楽が出てくるのを楽しみにしててください

と語る。挨拶に毛が生えた程度の内容なのでここから音楽性の詳細を掴むことは困難だが、幸いPANDORAのデビュー作となる『Be The One』が同サイト上で一部公開されている(スマホサイトのみ)。

■やっぱりハイトーンだった

『Be The One』は2017年9月3日から放送される『仮面ライダービルド』(テレビ朝日)のテーマソングで、ボーカルはavex traxから売り出し中の女性シンガーBeverly(ビバリー)さん。Beverlyさんのオフィシャルサイトによると「アメリカ、フィリピン等の音楽祭で数々の受賞歴を持ち、日本が初めて体感するハイトーンボイスを持つ世界レベルの実力派シンガー」というプロフィール。5オクターブの音域で歌えるのが売りらしい。

曲を聴き、紹介文を読んで僕は思わず「やっぱハイトーンかい!」とつぶやいてしまった。

1990年代以降の小室さんプロデュース作品は非常に高いキーが続く楽曲が多い。対談で「ハイトーンでないと(音が)抜けない」と語っていたこともあるほどこだわりがあるようで、歌い手に無理をさせてでもキーの設定を高くする傾向が見られる。浅倉大介さんが手がける貴水博之さん(access)、西川貴教さん(T.M.Revolution)、コタニキンヤさんらも男性ではあるがハイトーンが売りのシンガーだ。

このふたりがタッグを組んで初めて迎えたボーカルが“前代未聞のハイトーンシンガー”だというのだから面白い。リズムもそれぞれお得意の90年代風ダンスビート。

結成のニュースを聞いたとき、個人的には「そろそろのんびりやりましょか」「セールスより自分達がいいな~って思える音楽やりましょか」的なユニットなのかなと思っていたのだがどっこい。PANDORAとは小室、浅倉という稀代の音楽プロデューサーふたりがそれぞれの成功体験を再現した商業路線バリバリのユニットだったのだ。

■アイドル音楽市場への“反撃の狼煙”

思えばここ15年以上、音楽市場は女性アイドルグループの独壇場だった。つんくさん、中田ヤスタカさん、秋元康さんらが注目を浴びる一方、2000年までにソロシンガーやピンボーカルのグループのプロデュースで一世風靡した小室さん、浅倉さんは存在感を低下させていた。

しかしその勢力図もようやく転換の頃合いを見せている。モーニング娘。やAKB48の勢いはすでにピークを過ぎ、Perfume、ももいろクローバーZも固定ファンの確保に路線を変更している。アイドルブームはひとまず終焉に向かっているというのが僕の見解だ。小室さん、浅倉さんにとって反撃のチャンスが到来したと言っていいだろう。

今回発表される『Be The One』が世間でどんな評価を受けるかはわからない。ふたりの全盛期を体感した世代の僕としては、楽しみなような、お腹一杯なような──不思議な感覚だ。ともあれ、せっかく結成したのだから長きにわたってさまざまな作品作りにチャレンジしていただけることが一番の結果になると思う。

さしでがましいですが「応援」しております。

文=citrus シンガーソングライター/音楽評論家 中将タカノリ