町の野良猫たちを「ヤンキー」に擬人化して描く『ニャンキーズ』が、大迫力×猫萌えの新感覚マンガだった件

マンガ

公開日:2017/8/25

『ニャンキーズ』(岡田淳司/KADOKAWA)

 昔住んでいた家の近くに一匹の野良猫がいた。彼(?)は少々ツンデレで、近づこうとすると逃げていくのに、こちらが見向きもしなければいつの間にか足元まで近寄っている、なんてことがあった。いつだって凛としていて、孤高の存在。なぜだかわからないけれど、その姿はやたらとカッコよくて、憧れに似た感情すら抱かせる猫だった。

 猫という生き物は実に気高いものだ。それが野良猫であるならば、なおさら。「ひとのやさしさなんていらねぇよ」とでも言いたげな視線をこちらに向け、孤独の影を背負っている。その生き方、なにかに似ている気がする。

 ……そう、それはヤンキー(不良)たちだ。己の信念に忠実で、それを守るためにときには力と力をぶつけ合う。徒党を組むことはあるけれど、結局はひとり。なるほど、猫とヤンキーには共通項があるのだろう。

advertisement

 だからなのか、『ニャンキーズ』(岡田淳司/KADOKAWA)を読んだとき、その設定に思わず唸らされた。本作をジャンルわけするならば、ヤンキーマンガに入る。しかし、ただのヤンキーマンガではない。なぜならば、本作に登場するヤンキーたちは、町の野良猫たちが「擬人化」されたものだからだ。


 主人公のリューセイはオスのキジトラ。猫の姿では縞模様が愛らしいが、擬人化された状態では茶色い短髪と左頬の傷跡が特徴の、かなりいかついヤンキーだ。第1巻では「猫鳴町」を舞台に、リューセイが町のボスに君臨するさまが描かれる。

 ヒロイン・ミイ(メス・ポイント)が「この町の勢力図…変わるわよ」というように、猫社会もヤンキー社会も、強い者がテッペンに立つ。その点、リューセイは滅法強い。それまで無敗だったタイガ(オス・チャトラ)をぶちのめし、「お前にボスの座を受け渡す」と宣言されるのだ。

 しかし、その後も争いは続く。隣町の敵対チームがリューセイをつけ狙い、ミイをさらってしまうのだ。第2巻にまたがって展開される、この「ミイ救出エピソード」は胸熱! ヤンキーたちがヒロインを救うために力を合わせるなんて、マンガ好きにとって大好物の展開だろう。もちろん、そのバトルシーンは大迫力。圧倒されるほどのスピード感をもって描かれているので、思わず手に汗握ってしまうに違いない。


 ただし、繰り返しになるが、本作の登場人物たちはあくまでも野良猫。拳をぶつけ合い、必死に闘うが、猫。ヤンキーマンガのノリで読み進め、ふとその設定を思い出すと萌えてしまう。

 どうやら作者の岡田さんもそれを狙っているようで、しばしば擬人化シーンと現実のシーンとが重ねられる。



 強面のヤンキーたちが大迫力の死闘を繰り広げているかと思いきや、猫のケンカシーンに引き戻される。そのリズミカルなギャップが、読み手をどんどん物語に引き込んでいくのだ。しかも、猫の姿のときは、どのキャラクターも悶絶するレベルでかわいい。

 さらに、リューセイたちのセリフにも猫らしさが忍ばせてある。

“何にも縛られたくねえから野良猫やってんじゃねぇのか?”

“誰の助けも借りずに誇り高く生き抜いていくもんだろうが!!”

“誰も…俺たち野良の自由だけは侵害することはできねぇんだ”

 どれも野良猫ならではの言葉。けれど、なんだか人生に通ずるところがあるような気もする。こんな名ゼリフを猫が「にゃーにゃー」言っていると想像すると、もうたまらない。

 ミイを救出し、リューセイたちも落ち着いて暮らせると思いきや、第2巻のラストでは新たな敵(猫)出現の予感……。どうやら次巻からは大抗争がはじまりそうだ。

 ヤンキーマンガとしてはもちろん、猫マンガとしても楽しめる一石二鳥な本作。普段、町で見かける野良猫たちが、裏ではこんな争いを繰り広げているのかも……なんて想像しながら読むとハマってしまうはず。そう考えると、野良猫たちについ手を差し伸べてあげたくもなるが、きっとその手は猫パンチで振り払われてしまうに違いない。

文=五十嵐 大