松井珠理奈『豆腐プロレス』で激闘! 高まるアイドルとプロレスの親和性とは?【『アイドル×プロレス』小島和宏インタビュー】
公開日:2017/8/31
今年3月、「ももクロは“プロレス的”で、AKBはそうじゃない?『ももクロ×プロレス』著者・小島和宏インタビュー」という記事を書き、反響を呼んだ。「なるほど!」という声もあれば、「いや、そうじゃないだろう」という反論もあった。それだけ関心の高いテーマだということだろう。
しかし、ももクロとAKBだけではない。アイドルとプロレスには、古くから親和性がある――。小島氏が新たに上梓した『アイドル×プロレス いい年こいた中年が両方好きでなにが悪い!』(ワニブックス)には、そう熱を込めて綴られている。アイドルとプロレスの親和性とはなにか? 再び、小島氏にインタビューを敢行した。
――改めて、「ももクロは“プロレス的”で、AKBはそうじゃない」という言葉の意味を教えていただけますか?
小島和宏(以下、小島):製作サイドが、“プロレス的”なことを意図しているかどうかの違いですね。ももクロは、エンターテイメントとしての“魅せる”手法の多くを、プロレスからお手本にしています。プロレスファンが見ると元ネタが分かるので、より一層楽しめる。AKBは逆に、提供する側はプロレス的なことをやっているつもりはないけど、見ている側が勝手にそう置き換えていたんですよね。「前田敦子はジャイアント馬場で、大島優子はアントニオ猪木だ」とか。
――AKBは『豆腐プロレス』で、実際にプロレスをやってしまいました。
小島:これがまた、ももクロとアプローチが違うところで、ももクロはあれは絶対やらないと思うんですよ。ももクロは、技を受けることはしないんですね。メンバーがレスラーに技をかけることはあっても、受け身の練習をしていないから、技は受けない。それがレスラーへのリスペクトなんです。一方、AKBは『豆腐プロレス』のために、がっつり時間をかけて受け身から練習した。アプローチは違っても、リスペクトの点では相通ずるものがあると思いました。
――SKE48の松井珠理奈さんは、ドラマきっかけで見事にプロレスにどハマりしましたね。
小島:プライベートで、後楽園ホールの立ち見にいたらしいですからね(笑)。ももクロがプロレスラーの生き様や魅せ方を学んできたのに対し、松井珠理奈は棚橋弘至や内藤哲也を自分の中に取り込んでしまった。6月の総選挙のマイクは、完全にプロレスラーでした。来年の総選挙を辞退することを表明している指原(莉乃)と渡辺麻友に向って「来年も戦いましょう!」とリマッチを要求したり、「愛してまーす!」(※棚橋の決め台詞)で締めたり。今まで彼女は、そうやって感情をむき出しにすることが出来なかったんですよ。でも今は、短期間でプロレスからインプットしたものを、ばんばんアウトプットしている。本人も今まで、どう自分を表現していいのか分からない部分があったんだと思うんです。それがプロレスを通して、掴めたんでしょうね。
――どうして松井珠理奈さんは、あそこまでプロレスにハマったのでしょうか?
小島:いきなり「オカダ・カズチカvsケニー・オメガ」(※今年1月4日、新日本プロレス東京ドーム大会)という、最高の試合をリングサイドで観てしまったわけですから。しかも自分たちもドームでコンサートをやってきているので、あそこでやることの大変さもよくわかるわけです。歌うわけでも踊るわけでもないのに、何万人もの人たちの感情をコントロールするプロレスラーから、刺激を受けたんじゃないでしょうか。
――アイドルとプロレスの親和性をひと言で言うと、どういったものでしょうか?
小島:ひと言で言えないから、一冊の本になっちゃったんですけど(笑)。プロレス及びアイドルの関係者4人との対談集(※フジテレビ・三宅正治アナウンサー、ももクロ・高城れに、スターダム・紫雷イオ、DDT・高木三四郎)なんですが、三宅アナのインタビューに答えが書いてあると思います。全女(※全日本女子プロレス)の実況を長く担当されて、今、ももクロにこれだけ夢中になっている。でも、プロレスとアイドルの親和性については気づかずに、ももクロを応援していたそうなんですよ。今回の対談を通して、「かつてプロレスで見てきたことを、今、ももクロのライブ会場で体感しているんだ」というふうに気づいてもらえたみたいです。
――高城れにさんのインタビューも、“アイドル本人の証言”という形で、すごく説得力がありました。
小島:これまでもプロレスのセコンドについたりはしてきたけど、「ももいろクリスマス2016」で開催した『てまきプロレス』で、観客の立場として初めてプロレスを観戦したんですよね。本当はこんなにがっつりしたインタビューにするつもりはなくて「越中さんの試合を観て、どう思ったの?」ってコメントをもらおうとしてたんですよ。そしたら、どう思ったどころの騒ぎではなくて、「あの日のさいたまスーパーアリーナから、ステージでの気持ちの入れ方が変わった」とまで言っていて。周りの大人がずっと、プロレス、プロレスと言ってきた意味が、今まではぼんやりとしかわかっていなかったと思うんですけど、一回試合を観ただけで驚くほど深く理解できてしまうというのが、彼女のすごさですよね。
――女子プロレスラーの紫雷イオさんはいかがでしたか?
小島:彼女は唯一、ももクロとAKB、両方のメンバーとリングで闘ったことのあるレスラーなんです。『ももクロ試練の七番勝負 番外編 ももクロvs女子プロレス』で百田夏菜子と。AKBの『シュートサイン』のPVで宮脇咲良と闘った、というかリングの上で実際に肌を合わせている。イオ選手と今回改めて話して、つくづく一流だなあと思いましたよ。
――イオ選手自身は、「一流に見えるかどうかは、“切り捨てる”勇気があるかないか」と話していますね。
小島:切り捨てることが出来る女子プロレスラーって、少ないんですよ。全部技を出さないと、お客さんは満足しないんじゃないかと不安になってしまう。「あの対戦相手にこの技をやっても映えないから、あえて出さない」という、イオ選手の決断は勇気がいると思います。メインイベンターですからね。持ち技を全部出すのが『全力』だと思っているレスラーが多いんですが、それだといつも同じような試合になってしまうんですよね。イオ選手はだから切り捨てている。アイドルの場合も、一曲でも多くやったほうがお客さんは喜ぶけど、時間的に切らなくちゃいけない部分が出てきます。今、ももクロはライブの演出も自分たちでやったりしているので、「今日なにを見せるべきなのか?」を考えてセットリストを組んでるんです。これもアイドルとプロレスの親和性ですよね。
――DDT高木三四郎社長との対談では、“アイドル×プロレス”についての具体的な戦略が語られています。
小島:DDTが「アップアップガールズ(プロレス)」というプロジェクトを始めたのは、画期的でしたね。今までは「女子プロレスラーの人気が出るとアイドル的にCDや写真集を出す」という流れだったのが、最初から両方やるっていう。しかも目標がプロレスラーとして武道館で試合をする。アイドルとしても武道館でライブをやる。2つのゴールに向けて、同時に走っていくんですよね。ハマれば、今までの流れを全部ひっくり返すことになるかもしれないです。
――これからも、“アイドル×プロレス”の深い関係は続いていきそうですね。『ももクロ×プロレス』、『アイドル×プロレス』に続く、次回作も楽しみにしています。
「週刊プロレス」記者から、ももクロ公式記者へと転身した小島氏。フィールドは変わってもあくまで“現場ありき”の姿勢に、同じライターとして唸らされる。常に現場に足を運んでいるからこそ、本書での貴重な対談が実現し、現場でしか知り得ない内容をふんだんに盛り込むことが出来たのだろう。
同時期に発売された『ももクロ独創録 ももいろクローバーZ 公式記者インサイド・レポート 2016 – 2017』(徳間書店)、『Negiccoヒストリー Road to BUDOKAN 2003-2011』(白夜書房)も併せて読むことをオススメしたい。「プロレス×活字」というジャンルにおいて多大なる影響を与えてきた小島氏は、今、「アイドル×活字」というジャンルをより深く掘り下げつつ、さらに大きく広げようとしている。その過程を目撃するのは、プロレスファン、アイドルファンならずとも、実に楽しい。
ぜひ3冊同時に手に取ってほしい。小島氏の文章から溢れ出るみずみずしさから、感じるものがきっとあるはずだ。
文=尾崎ムギ子
◆小島和宏・番組出演:9月1日(金)13:00~ ニッポン放送『金曜ブラボー。』 ※14時からのゲストコーナー
◆トークショー: 『アイドル×プロレス』発売記念アイドルも、プロレスも「まるごと」やってやるってHMV晩夏のバカ騒ぎ2017in渋谷越中詩郎×小島和宏トークショー
【日時】9月3日(日)18:30~
【会場】HMV&BOOKS TOKYO 6F イベントスペース
東京都渋谷区神南1-21-3 渋谷MODI内 5F-7F
【出演】越中詩郎×小島和宏
【詳細】http://www.hmv.co.jp/st/event/30397/