アラサー男3人が「不幸比べ」をするマンガ『世界で一番、俺が○○』【水城せとなインタビュー】
更新日:2017/9/25
「いつか」と思うと、永遠に変われない
実は「読者の要求」に合わせて作品を描いていた時期もあった。それではダメだと気づいたのが29歳――柊吾たちとほぼ同年代のときだ。
「描きたい話があっても当時はまだキャリアがないので、〝王道のものを描いてヒットさせて信用ができてから〟と言われていました。それでずっと〝いつか描くぞ〟と思っていたんですけど……30歳が見えてきたなというときに気づいたんですよね。〝あ、いつかは来ないんだ〟って。いつかいつかって思っていると、いつかは永遠に来ない。〝今やる〟って思わないとダメなんです。〝今自分が死んだら、こういう作品が描きたい人だって周囲に思われたままになるんだ。やばい〟と思うようになって、自分の描きたいものを描けるところを探すようになったんです」
周囲を見ていても、大きく変われる最後のタイミングが28〜29歳だという気がしている、と水城さんは言う。
「もちろん50歳で突然小説家デビューする人もいるし、可能性はいろいろあるんですけど、自分の生き方を客観的に見て、否定する勇気、違う自分を受け止められる余地を持てる一番大きな最後のチャンスがアラサーなんじゃないかと思っています。その頃に変わらなかった人が後から変わったという話は、あまり聞かないですね」
マンガの結末だけでなく、まるでなんでもお見通しかのように、終始客観的に話す水城さん。「100パーセントの力でマンガを描ける期間はもうあまり長くないと思う」と言いつつ、「ペンネーム変えてこっそり小説を書くのも面白いかな」と、新しい意欲も見せる。
「『セカオレ』はこれからどんどん焼け野原になるかもしれませんけど(笑)、恋愛部分も深まってきますし、救いも描くつもりです。恋愛モノが好きという方もぜひ手に取ってみてください」
取材・文=平松梨沙
水城せとな
みずしろ・せとな●1993年デビュー。2012年に『失恋ショコラティエ』(小学館)で、第36回講談社漫画賞少女部門を受賞。同作はドラマ化でも話題となった。近年は作詞や人生相談連載など、活動の場を広げている。既刊に『脳内ポイズンベリー』(集英社)、『窮鼠はチーズの夢を見る』『黒薔薇アリス(新装版)』(ともに小学館)など。