奇妙な生き物、獲って喰ったら…? TVで話題の「キモうま」生物ライターの探索&捕獲劇

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更新日:2017/9/26

『喰ったらヤバいいきもの』(平坂寛/主婦と生活社)

 地球上の生物には、生き残るために、独特の進化を遂げた種類がたくさんいますよね。捕食者から身を守ろうと毒や武器を持つようになったり、体を覆う表皮がとても頑丈だったり。でも、もしもそんな防御策を無視して、自分のことを食べようとする、ヘンな人間が現れたら…? そんな“ミスター・危険生物の天敵”による本をご紹介します。

『喰ったらヤバいいきもの』(平坂寛/主婦と生活社)はその名の通り、食すことで非日常的な体験を味わえる、水陸27の生物について解説した書籍です。著者である平坂寛氏は、「獲って、触って、食べてみる」という、独自の取材スタイルを有する生物ライター。近年はテレビのバラエティ番組への出演も目立ちますが、ネット界隈では「たくさん食べてはいけないバラムツ(深海魚)を大量に食べて、お尻が大変なことになった人」(http://portal.nifty.com/kiji/120224153792_1.htm)としても有名です。

 本書には、この衝撃的な記事にも劣らない、珍しい生き物の捕獲・実食リポートが多数収録されています。例えば、オホーツク海の岩場に暮らし、発達した顎でウニやホタテも噛み砕くというオオカミウオは、一本釣りののち兜煮に。ギャングに襲撃を受けながらも捕獲した南米の川魚・ヨツメウオは塩焼きで。「世界中のキモい生き物と出会ってきた僕をもってしても、足がすくんでしまうほど」グロテスクだったという二枚貝の仲間・フナクイムシは何と、踊り食いで。この3生物、画像検索をされる際には、皆様どうか覚悟の上でお願いしますね(特にフナクイムシ)。

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 同書には、こうした生き物との対峙の記録だけでなく、著者である平坂氏自身に迫った「ドキュメント! 謎の生物ライター・平坂 寛」という読み物も収録されています。ここでは、今の彼を構成するさまざまな要素や体験が明らかになるのですが…この部分がなかなかどうして、メインコンテンツに引けを取らない読み応えなのです。

 生き物好きなご両親の間に生まれたこと。「生き物の『本当の姿』は、自分自身の目で見て、触れて、確かめてみないと分からない」と実感した、小学生の頃の原体験のこと。「トカゲとか捕ってたら……モテないんじゃねぇか!?」と悩んだ中学・高校時代を経て、生物学の研究ができる大学へ進学。そこで出会った生き物のことをより深く知りたいという気持ちから、実際に見て、触れて、そして食べてみるという、現在の取材スタイルを確立したようです。

「生物に関する本を書く」、そのためにまず「生物学者になる」という夢を追って、卒業後は大学院へ。ところが、顕微鏡をのぞき続ける毎日のなかで同氏は、自分は研究者に向いていないと感じるようになったといいます。

研究にも行き詰まってしまった。これ以上ないほど、宙ぶらりんな状態だった。

 やるべきことは押し寄せてくるのに、それを消化するための情熱が、底をつきかけている。焦燥感と虚無感で板挟みにされたまま、徐々に息苦しくなっていくような、あの感覚。一度でも研究の道を志したことのある方なら、こうした描写には、心をえぐられることでしょう。ちなみに私は、ちょっと泣きました。ええ。

 しかし、平坂氏が凄いのはここからです。偶然見掛けた≪ライター募集≫の文字にときめき、応募作が掲載されてプロデビュー。その後はアルバイトをしながら必死に原稿を書き続け、実績を重ねて今に至るのだとか。お目当ての生き物を追い掛けて、時には地球の裏側まで飛んでしまう彼のバイタリティは、こうした人生ドラマあってのことなのかもしれません。

 さて、ニクいことにこのドキュメントは、同書のほぼ真ん中に配置されているのです。海の生き物編の次にこのドキュメントが来て、そしてまた、淡水の生き物編と、陸の生き物編に続くんですが――この超濃厚な半生記を読んでしまうと、既に読み終えたはずの海の生き物編を、こんな人が書いているんだという情報をもって、読み直したくなってしまうんですよね。でも、次の淡水の生き物編も気になるし…。1度目の読書をどう進めるか、迷ってしまうかもしれません。

 メインコンテンツはもちろんのこと、ヒューマンドラマとしても楽しめるお得な1冊です。

文=神田はるよ